Matrix-1
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#5 異次元への埋葬


 マグナモンは体の中心部に、持ちうるエネルギーの全てを収束させる。
 宇宙生まれし特異点の如く、膨大なエネルギーが一点に凝縮されてゆく――やがて爆発するために。

 マグナモンの上方に形成される0と1の渦が徐々に密度を増し、塩基が連結されゲノムへと昇華されるように連なっていく。
 表象を得て、この次元に奴が――デスモンが現れ始めた時。その時が唯一にして最大の好機だ。
 別次元を経由する瞬間移動に於いて、その移動を中断するのは胴体を切断したまま放逐するも同じ。電脳核が転送される中途で中断するとしたら、それはより致命的だ。
 つまり、途中で襲撃を受ける羽目になっても、受けると分かったとしても、移動をやめる事は出来ない。
 マグナモンは息を殺し、瞬きを止め、相変わらず疼く脇腹の痛みを堪え――静寂の元に時を待つ。

 「クカカカカ……ぷれでじのーむニ何ヲ造ラセタノカ知ラヌガ、無意味ダッタヨウダナ」

 ひび割れた低い嗤いと共に、黒霧が実体を取り始める。黒爪を生やした手がマグナモンの頭部を鷲掴みにするように伸び、掌底の単眼がぎょろりと現れる。
 その瞬間、マグナモンは跳躍した。
 すぐさま、浮力生成プログラムを起動し宙に静止する。背後に紅き双眸を向ける事もなしに、黄金の彼の両腕がデスモンの灰白色の腕をひしぎ上げた。その凄まじい力に腕が潰されそうになり、デスモンが呻き声を上げる。

 「グ、グガガガガアア……!」

 予想だにしなかった事態――それにさしもの魔王も慌てふためく。腕が思い通りに動かせない。このままでは、必殺のデスアローもマグナモンに当たらず、空撃ちになってしまう。
 二体の闘いを静観するデュークモンは、無言で小さく頷く。

 「貴様……ワタシガ見エテイルトデモ言ウノカ!?」
 「俺がさっき何をしていたのか見ていなかったのか? 案外その馬鹿でかい眼も飾りらしいな!」
 「グ、ガガガ……あーまー体メ……言ワセテオケバ……!」

 後ろ向きのまま平然と挑発してみせるマグナモン。彼の紅き双眸の輝きは脇腹のひびらきにもぶれる事なく落ち着き、力強い。己の勝利を確信しているのだ。
 プレデジノームの力こそ借りてしまったが――最終的に倒すのは自分自身。デスモンの眼が憤怒にぎらつくのにも決してひるむことなく、所詮アーマー体と侮られるのも此処までだと、瞳の輝きは宣言する。

 「さあ、さんざん軽んじたそのアーマー体に斃される番だぞ……! 我が聖なる輝きに、浄滅され消え果てるがいい!」

 マグナモンの中心に集束した聖なるエネルギーが、臨界点に達する。
 それが今、解き放たれる――聖騎士ロイヤルナイツが一員、マグナモンの必殺技が。

 「“エクストリーム・ジハード”!」
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