□Matrix-2
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一体どういうことなのか。
何が起きているのか。
ロイヤルナイツがその同胞を死したものとして、それどころか、元より存在せぬものとせしめたなど。
想像だにしない事態に対し、デュークモンより寧ろヴァルキリモンの方が動揺した様子だった。切羽詰まった様子で端末を握り直す。
「デュークモン様、直ちにデータ復旧作業に取りかかりましょう。ヴァルハラ宮のデータベースには直接赴かねば干渉出来ませぬが……此方だけならば、デュークモン様の三次元データを計測して、データベースに再登録することが可能です」
「うむ……」
デュークモンは暫し沈黙を守ったが、やがてゆっくりと頭を振った。
「いや、寧ろ――このままにしておいた方が良いのやも知れぬ。ドゥフトモンにも、経過を報告する必要はなかろう」
「――それは」
バイザーの下で一瞬瞠目したヴァルキリモンだったが、二秒ほど熟考したのち、この守護騎士の真意を悟る。
「それでは……貴方様が、ダークエリアに送られたのだということを装って?」
「然り。その方がかえってこのデュークモン、行動しやすくなろう」
デュークモンは首肯した。
「今や、森羅マッピングも純粋に我々だけのものとは断言出来まい。ヴァルハラ宮の深部が乗っ取られているやも知れぬし、認めがたいが――同胞に背信者がいないとも限らぬ。更には――可能性としては考慮に値せぬだろうが、あれのテクノロジーを外部に売り渡し、誰そに複製させたとしたらどうであろうか」
彼の言葉は中程から、喉から血を絞り出すような凄惨な響きを帯びていた。性善説の信奉者であることを五感で理解させる程に。
ヴァルキリモンは、この紅蓮の外套はためかす騎士の言わんとするところを理解した。
ドルモンをリアルワールドに送り込むルートが漏洩していたのも、ロードナイトモンが殉職したのも、情報の横流しがあったからではなく、最初から全て位置を特定され、動きを追われていたからだという可能性が否めないのだと。
然るに、導き出される結論は一つ。
「従って、このデュークモンが“存在していない”のならば、好都合。行動を追跡される危険性は目に見えて減少する」
「それは、確かに……」
ヴァルキリモンは何ともいえぬ表情で項垂れて見せた。
デュークモンがそうした恩恵に預かれるのならば、それに越したことはないが、手放しに受容できる状況では決してない。
これがロイヤルナイツの仕業だとして、デュークモンを「存在していない」ことに仕立て上げて、一体何者が得をしようというのだろう。ロイヤルナイツ此処間の微妙な緊張関係というものを把握し切っているわけではない、それも専らリアルワールドに身を寄せている補佐役に過ぎない彼にとって、この問題は難解に過ぎた。
そして、本来清廉であらねばならぬはずの守護の座がこれ程胡乱に成り果ててしまっている現状に、憂いを覚えるばかりだった。ロイヤルナイツは束ねた矢のように鏃の向かう先を揃えなければならない。地方の自警団などとはわけが違う。聖騎士は電脳世界の安定という大義に身命を賭す、滅私奉公の徒たることを永久に宿命付けられた、純然たる守護の権化でなくてはならない。
そのあり方を、拙し宿世、神の呪縛と憐憫の情を抱く者が居るのだとしても、逃れることは許されない。
問題の中心にある当のデュークモンはしかし、それ程悲観的には考えていないようだった。
「案外これは、敵の仕業ではないのやも知れぬぞ」