Thrill Seekers
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 「あっ、あれって!」

 ミネルヴァモンが大剣の刃先を軸にしてくるくると回しながら、下界をはっきり見渡せるモニターを覗き込んでいたところ、ものめずらしい存在が目に入ってきた。
 デジタルワールドでも屈指の高さを誇る名峰オリンポスの頂には、十二神族と呼ばれるデジモン達の住まい−−此処に割り当てられた神殿−−がある。海中に宮殿を構える例外もいるが、基本的には皆そこで暮らす。
 デジタルワールドの監視者というスタンスに寄りかかっているだけに、十二神族の神殿には皆モニターが備え付けられており、其処から各世界の動向を眺めやる事ができる。各々見られる地域は決まっており、ミネルヴァモンのモニターで見られるのはオリンポス山近辺の黄土の大地である。
 
 はっきり言って、つまらない地域である。普段デジモンの出入りも殆どないし、そもそもデジモンが住んでいるのかどうかも怪しい。要するに、何もないのだ。十二神族の年寄り連中が、自分のおてんばな性格を分かっていてこんな地域を担当させているのだとしたら、限りなく陰湿ないじめだとミネルヴァモンは憤慨する。

 しかし、今日ばかりは違った。面白そうな事この上ないものが、ディスプレイに映っている。
 それは一体のデジモンと、これまで見たことのない珍しい物体だった−−例えるなら、「鉄の獣」だろうか。その鉄の獣を操縦しているらしい黒装束のデジモンは、画面越しに相当強いだろうということが伝わってくる。おそらく、究極体でもかなり上の存在−−そんな気がするのだ。

 これにミネルヴァモンが黙っているわけにはいかなかった。早速全身がうずき出し、そして、電脳核デジコアのあたりがどんどん熱く燃えたぎってくるのを感じる。これは、久しく味わっていなかった「わくわく」だ。

 以前今よりもっと自由に行動が許されていた時、この「わくわく」のせいで暴れまくり、ぶった斬りまくり、謹慎処分を受けてそうそう動けなくなったという経緯があるのだが、今回はもうそんな事は怖くもなんともない。もう永遠に掴めないかも知れないチャンスが、ディスプレイを通して目の前にあるのだから!

 そうと決まれば、早速オリンポス山を飛び降りて−−もといワープして、このデジモンのもとに颯爽と現れて、あとは−−というわけだ。移動はディスプレイにに行きたい場所を表示させて、「行きたい」と願えば即行でできるので問題ない。 
 
 「へっへーん!」

 ミネルヴァモンは楽しそうに声を漏らすと、くるくると回していた大剣を小さな体の肩に担ぎ、心に行き先へのワープを思い浮かべる。すると、彼女の全身は瞬く間に0と1のマトリックスに分解され、神々しい白い薄光に包まれて消えてしまった。
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