Real-Matrix:ADDITIONAL
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#1 時空間を超えて Past Digital:LordKnightmon
 
 電脳世界・デジタルワールド、その成層圏を突き抜けた先にある美しき空中庭園。様々な花が咲き乱れ、中央には荘厳な中世欧州風の城が巨体を構える。
 住民からは永遠の楽園、最後の楽園とも噂される、常昼で常春の花園。外敵はなく、何人たりともその存在を目にする事も叶わない、秘する安息の地。

 その君主として安穏とした生活を送る事によっても鈍らない、薔薇輝石の騎士王――ロードナイトモンの鋭敏なデジタル・センサーは、唯ならぬ異変が城の外で起こっている事を察知した。

 時空の揺らめきだ。
 否、揺らめきなどという言葉では生温いであろう。これは――時空の甚だしい歪曲、その結果としての部分断裂だ。
 
 喩えリアルワールドの黙示録に記されたような最後の日がデジタルワールドにも訪れ、万象一切が無に帰するような災厄に見舞われるような事があろうとも、この空中庭園だけは何一つ変わる事のない悠久の楽園として、何時までもこの場所にあるはずなのである。そう、創世の楽園エデンの様に。平穏と享楽という言葉を体現するような場所が、此処であるのだ。
 
 異変が起こる事など、絶対に有り得ない。――筈であったのだが。どうやら現実は、その神話に容易く終止符を打ったらしい。
 
 かような事をデジタルワールドの守護騎士たる自分が感知したからには、放置しておく道理はない。ロードナイトモンはすっくと立ち上がり、眼下で一生懸命読書と呼ぶにはまだ遠い「本読み」をしている、紫色の体毛に覆われた、犬のような外見の愛らしい動物に声を掛ける。

 「ドルモン、私は少し外に行ってくる。直ぐに戻ってくるから、それまでいい子にしているんだぞ」

 ドルモンは、広げられた本のページから顔を上げると、薔薇輝石の鎧纏う騎士の優雅な立ち姿を、目をぱちくりさせながら見つめた。トパーズ色の瞳の清澄さは、何も知らず何も疑わない無邪気イノセンスの証だ。

 「わかった〜。すぐもどってきてね〜?」

 「ああ、必ずな」

 それはドルモンを無駄に心配させないための一種の方便である。ロードナイトモンとしては、大分厄介な事態である可能性が高いような気がしてならなかった――騎士の勘だ。
 彼は身を少しばかり屈め、無機質の冷たい薔薇輝石の手で、滑らかな紫の体毛を撫でてやった。ドルモンは嬉しそうに口元を緩め、自分の頭部の毛がわしゃわしゃと乱される感覚に身を委ねる。
 ロードナイトモンはやがてそっと手を離すと、城の外に足を逸らせた。
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