Real-Matrix:ADDITIONAL
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#3 家族になるということ Enter the family

 鬱蒼と生えた木々が、葉を生い茂らせ緑の天井を形成する。その隙間から、三つの月の病的な白光が差し込み、三者を照らし出す。このデジタルワールドの住人、リアルワールドの住人、そして別のデジタルワールドの住人を。

 「――じゃあ、本当に俺達の知っている『ロイヤルナイツのロードナイトモン』とは別人なんだね?」

 人間の少年――輝一が、これだけは完全に確認しないことには気が済まないというような口調で、念を押してくる。ロードナイトモンは何ともいえない顔(他者に見ても分からないが)をして頷いた。

 「そうだ。肩書きは同じでも、私が以前にこの世界に来た事はないし、人間と顔を合わせた事もない」

 そういらえると、薔薇輝石の騎士は押し黙った。高性能を誇る情報処理機構の働きは、驚愕と困惑とに阻害されてしまっているらしい。もうどれ程セキュリティの守護者として種々の困難な事例にあたってきたか、指を折って数える気にもならないが、このような状況下に投げ込まれてしまった事など、ただの一度もないのだ。
 まず、デジタルワールドが複数存在したという事実。これはそれ程驚くことではない。多世界解釈論とリアルワールドで言われているものが、正しかった事を示すというだけだからだ。
 しかし、「ロードナイトモン」という名のデジモンひいては「ロイヤルナイツ」が他にも存在するという事実。これは非常に驚くべきことだ。それは喩えるならば、リアルワールドの宇宙には地球以外にも生物が生息する惑星が存在するという可能性があるが、その惑星に人間と全く同じ外見の生物がいた――という事と同程度に奇跡じみた事だ。

 「私も彼の言う事は事実だと思います。十年前のあの二人と違い、悪の気は感じられませんから」

 「そうか」

 天使型のデジモン・エンジェモン(ロードナイトモン自身、三大天使の眷属に遭遇するのは滅多にないことである)の言葉に、輝一は強張っていた肩を緩めた。反対に、ロードナイトモンは首を傾げた。十年前? あの二人? 悪の気? 一体どういう事情があるというのだろうか。「あの二人」の中の一人が自分なのだろうが、悪の気の有無を問題にされているとなれば、「この世界にいた自分」は、余程の悪行に手を染めたに違いない。果たして何をしでかしたというのだろう? 自分ではないとはいえ、不愉快になった。
 この輝一という人間についても気に掛かる。もし「テイマー」ならば、デジモンを連れていなければならないはずだが、エンジェモンはどうもそういう関係ではないらしい。様々仔細なわけを聞きたい衝動に駆られたが、ロードナイトモンはそんな悠長なことをしている場合ではないだろう、と自身にどやされた。そう、ドルモンが城で待っているではないか。「すぐに戻る」という嘘を吐いてしまったではないか。嘘ならばせめて、僅かでも真に近づけようと努めるべきではないか。

 「話を急かしてすまないが、私が元の世界に戻る手段はあるのか?」

 「その点は心配ないよ。今は時空のゆがみが不安定だけど、エンジェモンが安定させてくれる。ただ、ゆがみから十二神族の部下が襲ってくるかもしれないから、あそこに近づくのは見通しのいい朝になってからの方がいいと思う」

 輝一の丁寧な返答に、ロードナイトモンは感謝も兼ねて首肯した。
 
 「そうか……ならば安心だな」
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