Matrix-0
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#2 ……斜陽は闇を宿す非理性と共に
 

 獣性剥き出しの咆哮が、焦土の大気をびりびりと震わせる。
 強烈な雌黄に輝く両眼に、理性の色は見られない。
 鋼鉄然とした足が地を踏みつける度地は割れ、その断末魔が響き渡る。
 
 闊歩する蹂躙者は、身の丈7、8メートルはあろうかと思われる巨躯を誇る二足で屹立する竜だ。紺青を基調とした装甲で身を覆うためか、機械的だ。左手は五本指だが、右手にはその代わりに突き出た鋭利な槍先がぎらりと燦めく。

 ――コードネーム「BAN-TYO」を始末せよ。

 電脳核に木霊し――聴覚を支配するのは、その強迫観念めいた命令、ただそれのみ。
 誰が命令か? 何のため命令か? それは絶対なのか? 全てはとうに忘却の彼方だ。
 それとも、これは自分の悲憤の叫びに他ならないのか?
 撃墜された唯一のタンクドラモンという汚名を自分に着せた、憎い相手を殺したいという強い渇望からなのだろうか――?

 いや、もはやそんな事にすら疑問を感じない。例え理性があったとしても、それは思考する方へではなく、己の凶行を助長する方に働くのみだから。

 「ウィルス種の波動を感じる。つまり――この俺、サイバードラモンの除去対象という訳か」

 突如眼前に出現した竜人の存在を両眼に映し取り、巨竜は足を止める。
 背はせいぜいあって2メートル程度で、巨竜より遥かに小さい。全身の体表を黒いラバーで覆い、背からは所々ぼろぼろになった深紅の鋭い翼を生やす。

 「完全体か、はたまた……いずれにせよ、デジタルワールドにとって脅威となる存在は――消し去るのみだ」

 竜人――サイバードラモンは、青い装甲に身を包む巨竜を見上げ、口の端を吊り上げる。両腕を掲げる。

 「データの屑と化すがいい!“イレイズクロー”!!!」
 
 不可視の超振動波が空間の揺らぎとなっては放たれ、かすりでもしたもの全てを消し去らんと巨竜に襲いかかる。
 しかし、装甲竜は背から四枚の白いバーニアエンジンの翼を噴射すると、上空に飛び上がり消滅の波動を完璧に避けた。

 「ほう、躱すか。面白い!」

 再び両腕からイレイズクローを放とうとサイバードラモンは構える。しかし、第二撃が繰り出される事は永久になかった。
 
 ――行く手を遮る者は、排除する。

 次の瞬間、空中から地上へ突進してきた巨竜の右手の槍が、サイバードラモンを串刺しにしていた。
 驚愕で、竜人の表情が硬直する。

 「ばかな……俺の特殊ラバー装甲は、如何なる攻撃も防ぐはずなのに……」

 その言葉も虚しく、巨竜が右手を胴体から引き抜くと、サイバードラモンの姿はたちまちデータの粉体と化して消え去ってしまった。
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