Matrix-0
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 攻撃するでもなく、黒霧の中光を発する美しい騎士を見やりながら、妖艶な魔王は続ける。

 「そんな貴方様の事、部下のいくらかでも伴って此処を通行すべきだけれども、それは目立つからとお避けになったのではなくて? 例えわたくしの様な存在に出遭う事は想定なさっていたとしても、あまり目に付かないのを優先なさりますわよね?」
 「……よく喋るな、色欲の魔王」
 
 冷ややかな声を絞り出すロードナイトモン。リリスモンは何が言いたいのか、彼にはついぞ分かりかねた。
 しかし、彼女の言う通りでもある。
 然れども、そんな事情はどうだっていい。
 
 流石と言うべきか。七大魔王、油断も隙もない。どう倒せばよいのか――ロードナイトモンにとってはそれが一番の問題だ。
 先程の様な戦局を繰り返すのはさながら千日手の愚行に他ならない。ならばどうする……?
 
 ロードナイトモンは高速で|電脳核《デジコア》の思考機構を稼働させる。
 その結果、出た答えは一つしかなかった。
 しかしそれを実行すれば、もうドルモンと再び逢える事など永遠になくなってしまう――同時にその答えが出た。
 束の間よぎるドルモンとの日々。それが、季節を過ぎた花のように儚くしおれ散っていく様がふっと見えた気がした。
 然れどそれもほんの一瞬。ドルモンにそう言ったように、覚悟を決めた。
 
 ロードナイトモンの足が強く地を蹴り、弾丸の如く飛び出す。
 その向かう先は――黄金の爪を構え、獲物を串刺しにせんと待ち受けるリリスモンの正面だ。

 「わたくしには決して勝てないと分かって、自殺にでも及んでいらっしゃるのかしら?」

 リリスモンはまるで意味が分からない様子で、ロードナイトモンの突撃してくる方向へ自ら飛び出して迎え撃つ。

 「いいでしょう、喰らいなさいな、この暗黒の魔爪――“ナザルネイル”を!」

 瞬刻、リリスモンの猛然と繰り出した金色の五爪が、ロードナイトモンの前方を守っていたパイルバンカーの右を擦り抜けて−−薔薇輝石色の鎧の胸を貫いた。

 「ぐあっ……」

 堪らず呻き声を漏らしたロードナイトモンの鎧の貫通され、ひび割れた部分から華やかな色が抜け、次いで濁った赤銅色に変わり――粒子へと変じてゆく。
 しかし彼は微塵も動揺してなどいなかった。ロードナイトモンは苦しみも厭わず、まるで自ら突き刺さって行くように更に体を前に出した。

 「愚かな方ね。もう少し先刻のような攻防を続けようと思えば、時間は引き延ばせましたのに」

 悠然と高笑いするリリスモンに、だが、ロードナイトモンは泰然として返した。

 「もう時間稼ぎの必要はない。それに――愚かなのはどちらかな。私は確かに派手な技を持たないが、眼の前の敵をどうにかすることは出来る」

 これこそがロードナイトモンの狙いであった。 
 リリスモンとの距離を、限りなくゼロに近づける事が。
 そして、リリスモンの防御手段を奪い去る事が。
 右腕のパイルバンカーが、リリスモンの腹部に突き付けられていた。
 それに気付いて声を上げた色欲の魔王だったが、最早遅すぎた。

 「“アージェントフィアー”!!!」

 ゼロ距離から放たれる衝撃波は音速を遥かに超え、リリスモンの腹部を打ち抜き――そして暗黒地帯を劈いた。
 色欲の魔王は自失したように己の消し飛んだ空洞を見やり――金属音のような声で絶叫した。
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