Matrix-1
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 それに飽きてしまったかのように、やがてマグナモンが口を開く。

 「デュークモン、俺が此処に来たのは、実は潮風に当たるためだけではなくてな」

 壮麗な騎士の態度は、ごく泰然としていた。

 「やはり、そんな所だろうと思っていた」
 「そうか」

 マグナモンは隣に立つ盟友をちらりと見やると、再び地平線の彼方に見える黒霧立ち籠める地に目を向けた。そして覚悟を決めるように肩を一旦落とすと、またデュークモンに向き合って告げた。何処か弱々しい、低い声で。

 「ロードナイトモンが……デリートされた」

 デュークモンは澄んだ黄玉色の両眼を見開き、朋友の瞳を見た。マグナモンは辛そうに目をふっと逸らしたが、その綺羅綺羅しい石榴石の瞳には、哀しみとも遺憾とも取れぬ感情が渦巻いているのが見えた。

 「……何と」
 「……イグドラシルのロイヤルナイツ管理サーバからかの者の反応が消えたと、ドゥフトモンから伝達があったのだ」

 デュークモンは視線を落とし固まった。小刻みに瞳を震わせながら。
 あまりの事に暫く言葉が出てこなかった。
 心をウィルスの様に蝕んでいくのは、ひとえに「何故、何故、何故」その思いだけ。

 「何故……我々の計画は、完全に内密なものの筈ではなかったのか。何故、ロードナイトモンが……何者がそのような真似をしたのか!?」

 朋友の半ば涙声になった問い掛けに、マグナモンはゆっくりと頭を振った。デュークモンと思うことは全く一緒だ。故に、答えを持たない。

 「俺にも分からぬ。しかし、一つ言える事は、ロードナイトモンを消し去れる存在など、デジタルワールド広しといえどもそうは居ない――」
 
 ロードナイトモン――薔薇輝石の華麗なる騎士王を、刈り取れるのは同じロイヤルナイツの盟友達か、蒼穹におわす三大天使か大罪を背負いし七大魔王か、デジタルワールドの神位格たる四聖獣か――そんな存在だけだ。
 ロイヤルナイツが同志に仇をなすなど考えも及ばない。ならば、他の存在がロードナイトモンを? それは偶然か? それとも意図的に? 我々の計画が漏洩していたとでも?

 息を付かせぬ様に湧き上がってくる疑念の数々に、デュークモンは文字通り呼吸が苦しくなる思いだった。大盾でがつんとごつごつ角張った岩肌の地面を叩くと、やっと心を落ち着かせる。
 流れていた暫しの沈黙の後、デュークモンはようやく口を開けた。
 
 「あのデジモンは……我々ロイヤルナイツの希望は?」
 「ソレハ忌々シクモりあるわーるどニブジテンソウサレタ……ろーどないともんトイウ大キ過ギル犠牲ヲ払ッテナ!」
 「!?」

 おぞましい、暗黒淵の底から響いてくるような声が代わりに答えた。
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