Matrix-1
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 それにしても、相手方の攻勢が衰える様子がまるでない。こう躱し続けた所で、埒があかないのは明白だ。
 デスアローそれ自体を無効化する手立てを講じなければなるまい――
 デュークモンが固唾を呑んで閃光飛び交う空中の死地を見守る。

 尚もデスモンの掌から放たれる矢の雨に当たらぬよう、敏捷な動作で身を翻しながら、マグナモンは技を繰り出す隙を窺う。
 そしてその須臾を、マグナモンの紅い双眸は逃さなかった。自分の周囲を飛び交う死の矢が、全て一定以上の距離自分から離れる時を。

 「聖なる耀きよ、邪なる力より我を守りたまえ!」

 マグナモンが大喝し、力を解き放つと、全身から燦爛たる金光が放たれる。

 「“ライトオーラバリア”!」

 球状の燦然と輝く遮断膜が一瞬のうちに形成され、降り注ぐ死の矢の光線を全て水を弾くように消滅させる。
 バリアの内側に入り込んでしまったものは性質上消去出来ない。マグナモンは、全てのデスアローを締め出した形でバリアを繰り出せる時を狙っていたのだ。
 異形の魔王は単眼を思い切り歪め、矢の発射を中断して両手を握りしめた。

 「小癪ナ……我ガ“デスアロー”ガ通用セヌトハナ」

 デスモン自体の属性は「データ」だ。しかし、その技は破壊の「ウィルス」。聖なるワクチンの力により駆逐させる事が出来る。その原理によりマグナモンは我が身を守った。
 ロイヤルナイツで随一とも言える障壁形成能力。魔王相手であろうが、十二分に通用した瞬間だ。
 流石はマグナモン――と、デュークモンは無言で賞賛を送る。

 「今度はこちらの番だ――」

 マグナモンが光輝のバリアを解き、両手を水平に広げると、掌中に球形プラズマが生成された。
 雷霆を一所に収縮させたかの如きに目映い輝きを放つ。
 
 「“プラズマシュート”!」

 放り投げられたそれはデスモン目がけて一直線に飛び、真珠色の閃光が炸裂した。
 咄嗟に上空に飛び退ったデスモンだったが、完全には避けきれず、右半身の翼が焼失――いや、蒸発した。
 浮遊のバランスを崩した異形の魔王が、ぐらりと右側に傾く。禍々しい様相の翼は、飾り物ではないようだ。

 「よし、左翼ももぎ取ってしまえば、奴は地を這う虫も同然……」

 デュークモンがそう口にしたのも束の間。
 デスモンの背から黒霧が噴出し、もくもくと翼の形を取り――見る見るうちに、元通りに実体化した。
 目を見開くロイヤルナイツ二者。
 再生能力を持っているなど――デリートされてしまった薔薇輝石の朋友にも同様の力があった事を思い起こし、理由なき怒りに胸中を乱される。

 「クカカカカ……ソノ程度デワタシガ倒セルト思ッタカ。あーまー体。“デスアロー”ヲ防イダノハ褒メテヤルガナ……ククク」
 
 平衡状態を取り戻した魔王は、何事もなかったかのように宙に浮き、相変わらずのおぞましい嗤い声を上げた。
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