Matrix-1
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 「マグナモン、受け取るがよい! それで一時的に視覚センサーを書き換えよ!」
 「ああ!」

 マグナモンは優しく掴むように右手で物体を受け取った。
 途端にその外膜が溶け出す様に崩壊し、立体構造を成す0と1が目まぐるしく入れ替わり、新たに進化した視覚機構を生み出す。それが完成したとき、マグナモンの紅い双眸に映る景色は今まで通りでは有り得なかった。
 上方に果てしなく広がる天空、自分の背後にて真紅のマントを靡かせるデュークモンまでもがその方に目を向けずともはっきりと確認出来る。死角がまるで存在していない。正に、自分を中心に全てがマッピングされているも同然。凄まじい機能だ。あらゆるデジモンがこんな視覚を備えていたら、デジタルワールドはどうなっているのだろうか?

 これが、魔王共が厄介物とするデュークモンの能力――謎のプログラム・プレデジノームに電脳物体を造らせる事が出来るという力。広大なデジタルワールドの中で、ただ聖騎士デュークモンのみが持ち得る力だ。
 
 「デュークモン、感謝する……!」
 「礼など無用、任務遂行の必要経費であろう」

 しらっとそう答えるデュークモン。元々一人でデスモンと相対しているのは言ってみれば自分の我が儘に過ぎないのに、そう言ってくれる甲冑の騎士の優しさがマグナモンの身に染みた。
 ロイヤルナイツ二者のそんな様子を単眼をぎょろつかせて眺めるデスモンが、何をちょこまかとやっている、と言いたげに訊く。
 
 「クカカカカ……何ヲぷれでじのーむニ造ラセタ?」
 「そのように振る舞って居られるのも今だけにするもの、と言っておこう」

 毅然と返答するのはデュークモンだ。その黄玉の瞳には、あくまでぶれない信頼の光が宿っている。
 少しも態度を変えぬデスモン。どうあっても自分がアーマー体如きにやられる筈がない、奴の言うのは戯れ言、と高をくくっているのか。

 マグナモンはバリアを解除するとプラズマを掌中に生み出し、異形の魔王の方へと投げつける。
 
 「“プラズマシュート”!」
 「クカカカカ……馬鹿ノ一ツ覚エカ。ソノ手ハ通用セヌト証明ズミダガ」

 デスモンは嘲笑すると、その姿を黒霧に変えて消え、球形プラズマの直撃を避ける。目映い雷の球は、黒霧の塊を擦り抜けて彼方へ消えてゆく。一旦別次元に退き、再びマグナモンを急襲する腹づもりだろう。
 しかし、今書き換わっているマグナモンの視覚センサーの前では、それは無駄というもの。
 彼には、自分の真上に出現せんとしているデスモンの姿が、今や0と1の擾乱状態としてはっきり見えている。
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