Matrix-1
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 太陽コロナの輝きが一気に膨張し、炸裂する。
 一帯は光の爆発に飲み込まれ、天高く昇る陽すら暗い消し炭に等しい。
 爆ぜるプラズマの輝きを凌駕するその眩しさに、遠目で見ているデュークモンでさえ視覚が焼き切れそうになり、大盾を持ち上げ視界を覆った。
 
 ワクチンはウィルスを駆逐するが、逆にデータに侵食される三すくみの内にある。
 マグナモンの秘めし力は聖なるワクチン、対してデスモンを構築するのはそれを無に帰する羅列のデータ。
 その式に当てはめるならば不利だ。
 だが、圧倒的データ数量を以てすれば、等式を破壊し――超越する。

 デスモンを構成するデータが眩光に呑まれ、千切られ、不可視の領域まで断片化され、虚空に消える。
 しかし、瞬間移動を中断する事は出来ない。この次元に実体化するデータは、出現と共に消滅を余儀なくされる。
 異形の魔王に残された道は、デリートのみ。

 「グガガガ……グギャアアアアアアーーー!!!」

 身の竦むような断末魔を上げながら、異形の魔王は躯を溶け崩れさせてゆく。崩壊した肉片や黒翼、爪は、蒸発するように黒霧へと状態変化し、色褪せ、そのまま周囲の浮遊データに混じり消える。
 頭部に嵌まっていた黄色の巨眼だけが尚も、周囲の肉を失いながらぎょろぎょろと輝き続けるのは何ともおぞましい。

 エネルギーを放出し終えたマグナモンは、デスモンの腕が無くなったことで両腕を解放されると、浮力生成を中止し崖の上に降り立った。
 ほぼ同時に、紅き両眼から0と1の列が漏洩し、代わりに外部よりその分を補填するかのように0と1が流入する。プレデジノームの生成したプログラムによって視覚に施した変化が解け始めたのだ。
 間もなく、普段の視覚センサーが捉える景色が戻って来る。プログラムが無理矢理書き換えられたというのはリアルワールドで言う所の「病気」のようなもので、余程の事でない限り治癒される、即ち自然と元に戻るらしい。
 デュークモンの方は、眩光が退いたので盾を下ろした。

 「勲功だ……マグナモン……!」

 労いの言葉を独りごちる。自分がプレデジノームの力を貸してやったから彼が勝利を収められたという驕った考えは、微塵も脳裏を過ぎらない。
 マグナモン自身も、微量にデータが漏れ出している脇腹の痛みを忘れ、強大な敵を克したという余韻に束の間浸る。ひとまずは、助力が無ければ勝利できなかったとか、野暮な事情はよけておき――。
 その時だった。

 「ククク……クカカカカカ!」

 合間に割れた雑音の入る、狂ったようにけたけたと嗤う声。
 突如、デスモンの巨大な眼がかっと妖しく耀き、巨大な赤い光線を放った。
 期せぬ急襲に、流石のロイヤルナイツ二体もやや反応が遅れる。
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