□Matrix-1
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「ドルモン、最後だ! 行け!」
「“メタルキャノン”〜!!!」
ドルモンの口から全身全霊で打ち出された鉄球が、黒き邪竜の背をぶち抜く。
ウィルスを駆逐するは、ただワクチンのみ。
身の毛もよだつ大絶叫が凍てつく大気を破壊するかの如く上がり、龍輝はデバイスを持ったまま両耳を塞いだ。
デビドラモンの胴体中央に巨大な空洞が開く。平穏に仇為す害悪の権現たる数列の連なりが止めどなく流出し――
――そして。
龍輝の手にしたデバイスの画面に、吸い込まれるようにその数列がなだれ込んで来た。
ディスプレイに、ぱっと新たな表示が現れる。
『Undefined Data:Installed
volume:178』
気が付くと、デビドラモンの黒く禍々しい巨躯は跡形も無く消えていた。その構成データの全てが、このデバイスに取り込まれたということなのだろう。龍輝はそう推測する。
続いて、前方からのろのろと駆け寄ってきたドルモンの全身から、白光を放つ数列の帯が抜けて行き、虚空で霧散した。入れ替わりに、虚空より銀糸の様な数列が流入する。
再び龍輝は思う。デジモン――デジタルモンスター。こういうことなのだと。
「はあー……」
龍輝は次の瞬間、地面にどさりと崩れ落ちた。
ドルモンが自分の疲弊ぶりにも構わず、急いで龍輝にすり寄る。
「リュウキ〜、だいじょうぶ〜!?」
「ああ、疲れただけだ」
無理もない、緊張の糸がぷつりと切れたのだ。訳の分からない非常識な事の連続で、しかも死地に立たされたのだから、心身頭脳共に疲労して当然である。
ドルモンもかなり疲れた様子だが、龍輝は更に疲れている。
しかし、ここでへばっている場合ではないと龍輝はしゃんと立ち上がった。今現在は幸いこの場にいるのは自分達だけだが、最初にこの場に居た人達が通報していないと限らない。加え、デビドラモンの凄まじい断末魔は広範囲に渡って轟いてしまった。もう少ししたらしつこく、煩いマスメディアや場合によっては警察が押しかけて来ないとも限らないのだ。そうなったら、大変だ。
ドルモンの姿を大勢の人に見られるような事になるのも色々面倒だ。と言う訳で、まずは、早くドルモンを一旦家に帰す必要がある。それから疲れたので休むとして、今度こそ病院を目指す。
龍輝は左手の不可思議なデバイスを何とかズボンのポケットに押し込むと、歩道に転がっている花束を拾って雪をぱっぱっとほろい、端的に言う。
「ドルモン、一回家に帰ろう」
「うん〜。ドルモンつかれた〜」
そういう問題ではないのだが、ドルモンは素直に従った。二人とも寒さのせいだけではなく何となくがくがく震える足を急かせつつ、周囲を気にしながら元来た道を戻って行く。
この時、一人と一匹はすっかり失念していた。
現場にいたデビドラモンは――二体であった。もう一体を、二人は倒していないのである。
そのもう一体――上空で傍観していたデビドラモンが遥か彼方へと飛び去って行くのに、二人は全く気付かずじまいであった。