Matrix-1
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 「ん〜〜〜」

 まどろんでいる人間が寝言を言うときの反応のように、謎の動物は唸り声を上げた。その声質までが若干人間のそれに似ていたので、龍輝はびっくりしたが、不思議と気味は悪くなかった。
 
 (母さんの所に行くのはもう少し後でいいよな)

 龍輝はすっかりこの動物を観察、もといいじるのに夢中になってしまった。

 そっと体を撫でてみると、体毛は上質な絹のように滑らかで柔らかく、触り心地が大変良いと分かった。また、尻尾を優しくむんずと掴んでみると、これまた弾力があって素晴らしい。ぐったりと地面に寝た手にあしらわれた肉球のぷにぷにと可愛らしい柔らかさもなかなかだ。

 しかし、それら全てより一際目を引く、額で自己主張をする逆三角形の赤い宝石――それだけには、どうしても手を触れることが出来なかった。触るな――そんな警告が、このカボションカットのつるりとした宝玉体から発せられているような気がしてならない。

 はっと気が付くと、大きな黄色の瞳が疲れた様子ながら、こちらをじっと見つめていた。
 その目線は正確には−−龍輝の右腕に抱えられている巨大な花束に穴が空きそうな程向けられている。色とりどりの艶やかな花の群れをひたと見据えているのだ。

 (花?)

 この動物は花に何か興味があるのだろうか。龍輝は首を傾げるも、すぐさま腕に抱えていた花束を両手で持ち替え、動物の方へ近づけてみた。
 突如、その不思議な動物はさっきまでの疲れようが嘘のように起き上がったと思うと、花束に鼻の頭をぐっと押しつけた。

 (な……なんだ!?)

 龍輝がどぎまぎしていると、謎の動物は鼻をふんふんと鳴らし、薔薇の香りを胸一杯に吸い込んだ。その表情はとろんとしており、本当に幸せそうだ。本当に先程の疲れ果てた様子は何処へやら。見たことがないのでよく分からないが、エステでアロママッサージを受けている女性はこんな感じだろうと想像した。

 (余程薔薇の匂いが好きなのか? 珍しい動物だなー)

 と龍輝が思っていると。
 
 「ロードナイトモンのニオイする〜」
 「……え?」

 不思議な動物が喋った。
 龍輝は一瞬言葉を失って固まった。
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