Matrix-1
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 そういう訳で、只今龍輝と訪問者――ヴァルキリモンは客間のソファにテーブルを挟んで腰掛けている。
 ドルモンはあのまま部屋の床に放置してある。元々すやすや眠っていたところを無理矢理叩き起こしてしまったという所以があるし、ヴァルキリモンもドルモンは居合わせる必要がないと言うので、引っ張ってくる必要はない。今頃はまた眠りに就いているだろう。

 「……つまり、ヴァルキリモン――さんは、予てからその……ロイヤルナイツ? から、ドルモンがリアルワールドに来るからテイマーが見つかるまで保護し、テイマーが見つかったら見つかったで協力を取り付けるように頼まれていた……という事でいいですか?」

 龍輝は持ってきたデジモンノートの余白に早速新情報を書き入れる。ヴァルキリモンはノートとペンを見た事が無いらしく、「それは何ですか?」と最初に聞いてきたが、よく考えると電脳世界の住民がアナログな筆記具を使うはずもないので不思議でも何でもないのであった。
 
 ノートに既に書き込んでいるドルモンの証言――「ロイヤルナイツっていうすごくえらくてつよいひとたち」を元にすると、相当に誉れ高き集団と直接関係を持ち、その上重要な任務に就かされているこのヴァルキリモンもまた、相当高位のデジモンである事は明らかである。そんな存在に畏れ多くも自分は跪かれたのか、と龍輝はぶるっと身震いした。

 「そうです。詳しい話は別途させて頂きますが、概略はその通りです。しかし、さん付けはどうかおやめ下さいますよう」
 「あ、はい。じゃあ――ヴァルキリモン、で」
 「それで結構です。――さて、本題に入ってよろしいでしょうか」
 「大丈夫です」

 龍輝はノートの右側のページ最上部にペン先を置いた。

 「わたしが本日参りましたのは、先程も申し上げた通り、是非協力して頂くためにこの方の事情――我々の世界、デジタルワールドで発生した事態、発生している事態について説明致す為です。しかしそれにあたって、まず基本事項についてご存じかどうか確認させて頂きます。よろしいでしょうか?」
 「はい、大丈夫です」
 「ではまず、“デジモン”についてはどの程度ご存じでしょうか?」

 龍輝はノートをぱらっとめくり文字列に目を通しつつ答えた。

 「この次元とは位相が異なる“デジタルワールド”に住む二進数から成る電子生命体で、ワクチン・データ・ウィルスの三属性があって、子供? と大人? と究極? というレベルがある……この位です」
 「十分です。レベルについては間違いがありますが、それについて詳しくは後ほど」
 「あ、はい。分かりました」

 デジヴァイスのディスプレイ表示が日本語ではなく英語で、しかしこうしてデジモンと会話する時には日本語でコミュニケーションを取るというのだから、齟齬が生じるのは仕方なさそうだ。ともあれ、龍輝はデジモンのレベルについてメモした箇所を丸で囲い、「要修正」と傍らに小さく書いた。

 「では、“ダークエリア”については?」

 初めて聞く単語だ。しかも物騒な響きがある。龍輝は頭を振ったついでに、まっさらなページを開き直しペン先を触れさせる。

 「いえ……全く何も」
 「“ダークエリア”とは、デジタルワールドの地獄界です。デジモンが外的要因――戦闘などで死亡した場合、彼を構成していたデータは直ちにダークエリアに転送され、ある一定のスパンでまとめて消去されます。そして、魔族や魔王――殊に“七大魔王”が住まう場所でもあります。地理的に言うと地下に存在しており、生きたまま訪う事は一応可能です」
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