Matrix-1
7ページ/66ページ

 龍輝は母子家庭である。

 父とは幼い頃に死別した。兄弟姉妹もおらず、今は母が入院中なので、家にいる人間は自分一人である。
 ここ最近は自分が料理を作るなど自活能力がないために、コンビニ弁当やインスタント食品に頼る日々が続いている状態だ。掃除だって、自分の部屋を片付けるのがせいぜいだ。

 母が倒れてから、彼女がどれだけ大きな役割を果たしてくれていたか身に染みて分かった。退院まであと二週間ほどと聞かされているが、果たしてこんな生活ぶりでその期間やっていけるのだろうか、と龍輝は心配だ。
 
 彼とドルモンは二階に上がり、龍輝の部屋に入る。廊下は外気ほどではないにしても寒いが、部屋に入ると暖房が付けてあるのか、一気にもわんと暖気に包まれて心地良くなる。

 「ここ、おへや〜?」
 「そう、俺の部屋」

 ドルモンは泣き止んでいたが、少し潤み気味のトパーズ色の両目できょろきょろと内部を見回す。
 あまり大きくはない一段ベッド、灰色のカーテン、白い景色を映す窓、きちんと片付いた勉強机、本が所狭しと並べられた棚。壁には何も貼っていない。
 まあ普通の部屋であるが、ドルモンにとっては新鮮だった。

 (ロードナイトモンのおしろとぜんぜんちがう〜)

 ドルモンの知っている唯一の建造物がそれであるからだ。
 リアルワールドでいうところの、ノイシュヴァンシュタイン城の様に壮麗な造りの白亜の城。列柱に支えられた天井、通路に敷かれた赤絨毯、ずらりと控えた|騎士《ナイトモン》達……共通点がない。
 
 龍輝は背負ったリュックサックと花束を床に下ろし、さてどうしようとしばし考えた。
 ドルモンを此処に置いておいて、色々後で話を聞かせてもらったり、あわよくばペットとして密かに飼ったりする訳だが、今何もしてやらずに放っておき、外出するのは悪い印象を与えるだろう。

 (そうだ……ああいうの、食べるんだろうか?)

 龍輝は思いついたように、机の横に下がっているビニール袋から買いだめして置いたスナック菓子の袋を開け、中身をたっぷり大きな皿にのせドルモンに差し出す。
 
 「こういうの好きか?」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ