Matrix-2
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 何処で、なにゆえ事情がねじ曲がったのか。まるで状況が把握できない。
 それはヴァルキリモンも同じだった。お手上げとばかりに、渋面を伏せた。

 「――こちらとて、話は又聞き状態ですので、実際の事情は分かりかねますが……確かに、訳が分かりませんね。――あっ」

 彼ははっと頓悟したような表情をすると、急いで懐から再び例の端末を取り出し、デュークモンにも音声が聞こえるように設定を変えると、画面に向かって呼びかけた。

 「サー・佐伯、わたしです。ヴァルキリモンです」

 『ああ。どうした?』

 「ヘイムダルでデュークモン様の位置情報を特定願います」

 『了解だ』

 しばらくの間、沈黙が流れた。張り詰めた面持ちで、デジモン二体はそれを守る。一分程度経ったと思われるそのとき、端末越しに呟きが零れた。

 『……出ない』

 「え?」

 ヴァルキリモンが、思いがけず半音高くなってしまった声で聞き返した。

 『データベースにあるデュークモンのデータと照合しつつ、特定しようとしたが……そもそも、データベースにデュークモンのデータが存在していないという結果しか出ない』 

 「なっ……」

 鳥人は端末を握りしめたまま呆気に取られ、騎士は殴られたような衝撃に立ち尽くす。二者はどうしたらいいのか分からないという風情で、視線を交錯させる。
 ややあって、デュークモンが何かに気付いた様子で問い掛けた。

 「ヴァルキリモン、こちらのデータベースは、独立したものか?」

 「いいえ、基本的にはイグドラシルのそれと連動しています。あちらから、データを引っ張って来ているようなものです。ですから――」

 ヴァルキリモンはそこまで言うと、あっと口を閉じた。その理由を察しつつ、デュークモンは首肯する。そして、厳粛に後を受けた。

 「何者かがイグドラシルのデータベースから、このデュークモンの存在を抹消した――ということであろうな。そして、そのような真似が出来る者は――」

 「――ロイヤルナイツのみ、でしょうね」

 漆黒のバイザー越しに、純白の鳥人はいつになく深刻な表情をした。
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