BLEACH 中編・長編

□3.数十年前B
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「あ…いや……その、ですね…」


何か弁解をと口を開くが、焦りと恐怖から頭が働かない。そんな様子の杏をジッと見た後マユリは背を向けて作業を再開した。


「仕方がない。リンと運ぶと良い。他は君に手を貸す程暇じゃないからネ」


「…ありがとうございます」


技術員の壺府リンを探しにトボトボと部屋を出る。そして…。


「なんで壺府さんんんんん〜っ!!?」


少し歩いてからのシャウト。杏は頭を抱えて先程言えなかった事を叫ぶ。


「私に壺府さんが加わっても1に1で2になっただけじゃん!せめてもっと力のある男1人寄越してくれても良いじゃん!?」


壺府リンは小柄な男性で、下っぱである事に付け加えて、死神としての戦闘能力は皆無である。それでも技術開発局においては多少は役にたつ。技術開発局通信技術研究科霊波計測研究所研究科長である鵯子(ひよす)に良くいびられこき使われる。鵯州はギョロっとした目でフグのような男だ。


杏は力を最高5なら自分は完璧1だと思っている。そして失礼ではあるがリンも自分と同様に1であると思っている。つまり最弱の1と1がいくら合わさっても2にしかならないからせめて自分達より力のある男手が欲しいと。だが無情にもそんな人物は抜擢されなかった。


(頼めばなんとか…!)


マユリは駄目でも他の者に頼めば手伝ってくれるのではと希望を寄せ研究所を聞いて回って見るが、全滅。そして唯一手が空いていたのはやはりリン。


「僕で力になれれば良いんだけど…」


「…大丈夫。私も不安でならないよ…」


今2人の前には例の鉛の板が山積みになっていた。ここは地下の部品置き場。今からこの山から30枚の鉛の板を運ばなければならない。荷物を運ぶ為のエレベーターはあるのだが、重さの関係で往復回数が半端では無い。それ以前に台車に鉛の板を乗せる作業が辛過ぎる。


「「…………はぁ…」」


ごちゃごちゃ言っていても始まらないので2人は溜め息の後、作業に取り掛かった。


作業開始から30分。やっと20枚運び終えた。2人共限界である。杏なんかは以前の作業の疲労も付け加えて結構前から限界を突破していた。だが、自分より非力なリンが頑張ってるのに自分が休むなんてと言う考えが限界突破の体を無理矢理動かせた。


最近思う。以前の軟弱な自分が良くここまで体力も力もつけたなと。正直原因は分かる。翠の鬼スパルタな修行と周囲からの騒ぎへの巻き込まれが原因だと容易に想像がつく。感謝するべきなのかなんなのか。


「…………翠の鬼…」


「誰が鬼だって?」


「でゅあっ…!?」


修行を思い出して思わずボソリと呟いた言葉をこの場に居なかったはずの翠が返す。背後から現れた翠に思わず妙な声が出る。そんな杏を小馬鹿にするように笑う翠。


「今日も元気に涅隊長にこき使われてるな」


「どこら辺が元気に見えるんだよっ。こき使われるて元気マイナスだよ!限界点突破しちゃってるよっ!」


「つっこむ元気があるならまだ結構大丈夫でしょ」


「やっぱり鬼だ…!!」
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