Novel〜biyori〜

□曽閻
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曽良は閻魔の首を締め上げた。
瞳には滴り落ちそうなほどの憎しみが込められており、同時に、彼は今にも泣きそうな表情をして閻魔を見つめた。取り乱す曽良に対して、閻魔は冷静な眼で曽良を見つめる。

「…閻魔さん…、
…どうして…っ!」

「……。」

閻魔は口を開きかけて、やめた。
首を締められ呼吸を止められても閻魔は苦しいと感じることは出来ない、それは曽良もわかっているはずなのに、それでも首を締め上げるということは、自分が本気であるということを閻魔に示そうとしているのだろう。もしくは、閻魔が生きた人間ではないということを忘れるくらいに曽良が正常な判断というものを失ったのか。

「…あなただってわかっていたはずです…
僕は…」

「……ごめんね、曽良くん」

曽良は息を呑み、眼を大きく見開いた。何かに耐えるように奥歯を強く噛み締め、潤む赤い眼でただただ、閻魔の眼を見る。

閻魔はそんな曽良の頭をそっと撫でた。柔らかい黒髪をつっかえることなく閻魔の白い指が通る。

曽良は閻魔の首を締め上げていた手の力を弛め、膝を着いて閻魔の胸に顔を埋めた。
悔しい、
苦しい、
憎い、
そんな感情たちをそれでもなお押し殺す曽良は、これでもかというほどに強く閻魔の深い紫色の着物を握り締める。閻魔は曽良の頭を優しく抱き締めた。

「…曽良くん、本当にごめんね」

「……ごめんでは許しませんよ」

声が、震える。

「…ごめんね。
俺、我慢出来なかった。
だって本当に…」

閻魔は曽良を抱く腕に力を込めた。

「本当に…大好きだったから…」

「僕だってそうですよっ!」

曽良は声を荒げた。閻魔の身体がびくりと震える。

「…好きで好きで
たまらなかったのに…っ!」

口の中に血の味が広がった。噛んだ唇に血が滲む。

「閻魔さん、どうして……」

押し殺したような声で言いながら曽良は顔を上げた。ありったけの憎しみを込めた瞳で閻魔を睨み付ける。涙の溜まった瞳、今にもこぼれ落ちそうだ。

曽良は大きな声をあげた。




「どうして僕のお団子を食べてしまったんですかっ!」


「団子かよおぉっ!!!!」




鬼男の叫び声はそこら一帯に響き渡った。

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