Novel〜biyori〜

□曽良のバイト
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芭蕉、閻魔、太子、鬼男、妹子の5人は近所の神社に来ていた。まだ冬の寒さが残る中、わざわざこんな所まで来たのにはそれなりの理由がある。

話は30分前に遡る。





「曽良くんが神社でバイトしてるらしいんだけどっ! 皆知らない!?」

突然の芭蕉の言葉に一同は言葉を失った。驚いたようにゆっくり瞬きをする。

「いや、曽良に限ってそれは無いだろ。あいつ、面倒くさいこと嫌いじゃねぇか」

「でも分かりませんよ? 意外と頼んだら何でもやってくれますし」

鬼男の言葉を否定する妹子。しかし、曽良の考えていることがわからない。閻魔が興味深そうな顔をした。

「どうして芭蕉さんはその情報を手に入れたの?」

「実は昨日、『絶対神社に行かないでくださいね。』って言われて…。で、気になったから知り合いにいろいろ聞いてみたら曽良くんがバイトするみたいなことを聴いたから…」

一同は芭蕉の顔を見、やがて互いに視線を交わした。

「怪しいな」

「うん、怪しいな」

「絶対何かありますね」

「よし、こっそり神社を見に行こう!」

閻魔が言うと、芭蕉は驚いた顔をしたが、他の人々は黙って頷いた。でも、と妹子が言葉を続ける。

「でも、これだけの人数だと目立ちますよ?」

「じゃあ、堂々と見に行けばいいじゃないか」

しれっとした表情で太子。妹子は「それもそうですね」と言った。





そして現在に至る訳であるが、5人は曽良を未だ見つけることができていなかった。周りを見回すが、数人の巫女が働いているだけで曽良の姿は見当たらない。

もしかしたら、違う神社で働いているかもしれないな、と芭蕉は思った。曽良のことだ、念には念を入れて、絶対に芭蕉に見つからないような場所で働いているのかもしれない。が、芭蕉は再び辺りを見回した。

「うわぁ、あの巫女さん綺麗…」

不意に妹子が声を上げた。皆が妹子の指差す方を見る。

妹子の言う通り、その巫女は美しかった。他の巫女も和の雰囲気の美しさを纏ってはいるが、彼女は飛び抜けていた。白い肌に赤い唇、悩ましげな長い睫毛に、切れ長の目、そしてすっと通った鼻筋に艶やかな黒髪。細い身体は指先まで抜かりなく整っており、その美しさ故、ひとつひとつの動きが何かの儀式かのような厳かな雰囲気を醸し出している。長くほっそりとした首筋に、美しいラインを描く鎖骨、それらは日本人らしく華奢で上品であった。

「飛び抜けて美人だな」

さすがの鬼男も感嘆の息を吐く。

「ナンパしてきていいかな?」

「「「「駄目」」」」

「そんな即答しなくても…」

閻魔は肩を落とした。

その巫女がふとこちらを向いた。
瞬間、彼女の表情が固まる。
巫女の顔が青ざめ、目が見開かれる。信じられないというような形相。気まずく、身の切れそうなほどの緊張感が一同の中に走った。

長い長い沈黙。
やがて、小さく舌打ちをして巫女は社の奥へと逃げるように去っていった。優雅で美しい動きの中に、明らかな焦燥の色を浮かべながら。残された5人が顔を見合わせる。

「…曽良だな」

「曽良だね」

「絶対、曽良だな」

「曽良さんですね」

「曽良くんだね」

口々に言い、その気まずい空気を漂わせたまま5人は帰宅した。

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