Novel〜biyori〜

□妹曽じゃおんどりゃあああぁぁぁぁぁっ‼︎
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目を覚ますと妹子はそのいつもと違う風景に心臓が跳ね上がり、酷く動揺した。自分の部屋とは違う壁紙や日当たり、ベッドの広さもいつもより狭い、そして何より目の前には未だ眠っている曽良の顔があったからである。

必死に昨晩の記憶を紡ぐ妹子。そういえば昨日は夜遅くまで2人で曽良の部屋で物理の勉強をしていた気がする。自分の記憶が途中で消失しているのは恐らく、妹子がそのまま曽良の部屋で眠ってしまったからだろう。つまり、それを見兼ねた曽良が妹子をベッドへと持ち上げ、そのまま自身も就寝したというところだろうか。

もしそうだとしたら、申し訳ないことをしたな、と妹子は思う。教師や先輩後輩構わず、芭蕉やその他様々な人間を突然容赦無く蹴りつけたりする曽良であるが、彼自身は非常に非力だ。あの細く生白い腕が、自分の体重と同じくらい、むしろそれよりも重いかもしれない妹子を持ち上げることはかなりの労力を要したということは容易に想像できる。物理の勉強を教えて欲しいと言ったのは曽良であるから、その勉強を中途半端にして寝てしまったという事実があるから、尚更だ。

とりあえず起きよう、と妹子は体を起こそうとしてふと自分の右手を曽良が握りしめていることに気づく。それも堅く。くしゃくしゃになった黒髪は目元を隠していて、曽良の、筋の通った鼻筋と僅かな隙間のある紅い唇はあまりにも無防備で、それなのにその手は必死に何かに縋り付いているようにさえ思えて妹子はその手を解くことは憚られた。

曽良が起きないように、そっとその前髪を掻き分ける。長いまつ毛が印象的なその目元は、よく見ると涙の跡で腫れていた。
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