アラバスタ編
□Act.2 Rivers Mt.T
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四日後。ローグタウンでの嵐が嘘だったかのような天候の中、船はゆっくりと進んでいた。
船首に座る船長がウキウキと海を眺める姿をナナシは眺めていた。
「ナナシよぉ、見張りはおれがしてっから降りてもいいんだぜ? 上の方が揺れもきついし疲れるだろ?」
風船ガムを膨らませていると、望遠鏡から目を離したウソップが言ってくる。
現在、ナナシがいるのは船のメインマストの上に位置する見張り台。
緩やかな潮風に帽子が飛ばされないよう片手で押えながらナナシは笑った。
「お気遣いありがとうございます。でも、ぼくとしてはここが一番落ち着くんです」
「見張り台がか?」
「はい。ぼくは数年前は色々な船を乗り継ぐことで海を渡っていたんです。この時代ですから海賊船に乗ることも多々ありまして」
「へぇ、海賊船にねぇ。客として乗るのか?」
「そういう場合もありましたが、だいたいは一時的な雑用としてですね。街に着くまで船で働くことを条件に乗せてもらっていたんです」
「なんか大変そうだな」
「そりゃもう大変でしたよ。汚い船の掃除から臭い服の洗濯までやらせれましたからね。悪夢です」
思い出して、ナナシは顔をしかめた。
それを見たウソップが苦笑した。
「でもそれと見張り台と何の関係があるんだよ?」
「仕事がない時は主に見張りを任されていたんですよ」
「なるほどな」
「ですから、こういった海賊船に乗ると、どうも見張り台にいないと落ち着かなくて…。染み付いた性分と言いますか、自身の固定場と言いますか…」
「難儀なこった」
「まったくです」
笑ったウソップにナナシも苦笑を返した。