冒険の夜明け編

□Ep.1 旅立ち
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晴れ渡る空。

静かに波立つ海から柔らかい風が吹き、港に潮の香りを運ぶ。

風に揺れた鈴がチリンと涼しげな音を鳴らせた。



「変わらないな…。」



港に降り立った私はのどかな雰囲気が流れる村を見て、頬を緩めた。

空を見上げると太陽が真上にきている。

約束の時間が近い。

はやる気持ちを抑えて私は歩き出した。

村の様子は記憶の中にあるものとほとんど変わらない。



「おっ。サーシャじゃねェか!」

「大きくなったわね。帰ってきたの?」



そんな風に声をかけてくる村人達。

優しい顔と優しい声。

彼らに応じながら歩いて行くと、ようやく目的のそれが見えてきた。

少しばかり古くなった"PARTYS BAR"の文字。

たくさんの思い出がある大切な場所だ。



(手紙では待つように言ってあるけど、大丈夫かな。)



私が知っている彼の性格だと、自分を抑えきれずに村を飛び出してしまってもおかしくはない。

己に正直すぎるが故にその予想はあながち否定できないものがある。

もしもそうだったらどうしよう、という不安を飲み込んで、私は店に足を踏み入れた。



「いらっしゃいませ。」



店内に入ると、カランカランという小気味の良い音と女性の声が迎えてくれた。

明るく、素朴さを感じさせる声は懐かしく、私はカウンターへ視線を向けた。

カウンターにいる女性は驚いた顔をしていた。



「……サーシャ?」

「うん。久しぶり、マキノさん。」



目を見開かせている彼女に私は照れたように笑った。

彼女、マキノさんは数回ほど目を瞬かせた後、顔を綻ばせた。



「おかえりなさい。」

「ただいま。」



じんわりとした温かさを感じながら、私はカウンター席に座った。

慣れたように飲み物を出してくれたマキノさんは困ったように笑う。



「近い内に帰ってくるとは聞いていたけれど、やっぱり驚いちゃうわね。」

「3年ぶりだから仕方ないよ。」



私は苦笑しながらカウンターテーブルに置かれた飲み物に口をつける。

優しい甘さが口の中に広がった。


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