東の海編

□Prologue
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Side.???

荒れ狂う海。空も陸も海もすべてが黒い。

叩きつけられる雨の感覚が妙にリアルで痛みを感じる。

飛沫の上がる先に島が見えた。

その島からは言いようのない恐怖や怒りを覚えた。

今すぐにでも破壊してしまいたい、そう思った。

だけど、その島は自分のことを呼んでいるようで…。

手を伸ばそうとしたら、白い光が視界を埋め尽くした。



――…い…お……い…おい…!



声が聞こえて、意識がそこから離れていく。

やかましいなと思ったら、次いで全身に軽い衝撃が走った。



「おいこら新入り! 起きねェか!!」

「んぁ?」



目覚めると、残念な顔の男がこちらを覗き込んでいた。

どちら様ですかと寝ぼけた目で彼を見上げながら思った。



「ようやく起きたか。手間かけさせんじゃねェ!」

「あー」



言われて、ようやく状況を思い出した。

見渡す限りの青が広がる世界。

ここは海。そして自分はその海を航行している船の上にいる。

船、といってもただの船ではない。

髑髏の描かれた旗を掲げたそれは海賊船だ。

と言っても、今の時代そう珍しいものではないが。

で、目の前にいる男はこの船の海賊の長である。



「すみません。あまりにも天気がいいから、つい…」

「ったく、見張りが寝てどうすんだ。お前には次の島を見つけてもらわねェとなんねェんだからよ」

「わかりました。気をつけます」



天気は快晴。海もすこぶる穏やかで潮風が気持ちいい。

こんな絶好の気候で寝るなという方が無理…、と再び瞼を閉じようとすると頭に衝撃が。



「言ってる側から寝るんじゃねェ!!」



いててと頭を擦りながら起き上がった。

船長は不機嫌そうに眉根を寄せて、こちらを見下ろす。



「いいか! 仕事しねェんだったら今すぐこの船を降りてもらうからな!」

「わかりましたよ。……ったく、うるさい人だな…」

「あァ?!」



ぼそっと言った言葉はどうやら彼に聞こえていたようで、額に青筋が浮き上がった。

ピクピクと痙攣するそれを、あーあと見上げた。



「あんまり苛々すると体に良くないですよ? お肌にも悪いですし…」

「誰のせいだァ!!!」



彼のことを心配して言ったつもりなのだが、どういう訳か胸ぐらを掴まれた。

どうして彼は怒っているのだろうと疑問符を浮かべていると、彼の向こう側に青以外の色が見えた。



「―――あ。島」

「なに?!」



こちらの一言に船長はパッと胸ぐらを離して、海の向こう側を凝視した。

青の上にある緑が茂っているそこは間違いなく島だ。

しばらくその島を眺めていた船長の顔に歪んだ笑みが浮かんだ。



「よくやった新入り。―――野郎共ォ島が見えたぞォ!!上陸だァ!!」

―――おぉおおおおおおおお!!!!!



野太い声が船のそこかしこから聞こえてきた。

どうせなら黄色い声の方がいいなぁなどと思ったのはまた別の話。

今まで静かだった船が騒がしくなり、その様子を見張り台から眺めていた。

すると、船長が腰に重たそうな剣を携えてやってきた。


「新入り。お前は上陸しないで船の番してろ」

「わかりました」



船が陸へと着き、船員が次々と降りていく。

自分以外にも船番として何人か残っているが、そんなことはどうでもいい。

青い空と白い雲。それ以外には何もない。


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