ぶらこんっ!
□8.結婚
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11月23日。
時刻は午前11時過ぎ。
「うん、完璧。聡麻くん、可愛い」
「よく似合ってるわ」
満足げに俺の全身を眺める琉生さんと華娜さん。
鏡に映る編み上げミュールにピンクのドレスを着た俺。
俺の髪と同じ色のブラウンウィッグはツインテールにされ、ゆるく巻かれている。
「正しくこまどりね」
黒執事という漫画、又はアニメを見た人ならわかると思う。
俺の格好は切り裂きジャックの時の夜会のシエルの格好そのものだ。
違うところは髪と眼の色くらいだろう。
何故俺がこんな格好になったかというと、一時間前に遡る。
予定通りの時間に美容院に行った俺は琉生さんの隣に立つ人物に驚愕した。
そこに居たのは華娜さんで、華娜さんは反射で逃げ出そうとする俺に素早くラリアットをかけ、そのまま奥の部屋に連れ込んだ。
一方的に説明され反論の隙も与えられず、四の五の言わず着替えろと渡されたのはドレス。
20日前にも同じことがあったような気がする……。
そのあとは琉生さんにヘアメイクから何から何までやってもらい、今に至る。
サークルに依頼されていたドレスは、今日のためにと美和さんが頼んでいたものだったらしい。
もう、着いていけないんだけど……。
ボーッとしてると華娜さんが俺の手を引いて外へと向かう。
店の前には華娜さん家の車が停まっていて開けられたドアから車内に放り込まれた。
「美和さんから伝言。12時半までに椿さん梓さんと合流してちょうだい、ですって」
______________
12時を少し過ぎた頃。
俺は式が行われる都心のホテルに着いた。
ホテルに着いてすぐに椿さんに電話をかけると、
『今梓と向かっているよー★ もう少しで着くから良い子で待っててv』
と言われたので、ただ待ってるのもつまらないのでホテルを見て回ることにした。
案内マップを見ると、一角に『チャペル』と書かれた場所があった。
ブライトセントレアでは撮影することはできなかったけど、ここでなら撮れるかもしれない。
どうしても好奇心が抑えきれなくなった俺は、案内マップをもう一度確かめてから、その場所へと向かった。
入り口に『朝日奈家/日向家様御婚礼場』と書かれた案内板が出ている廊下を奥へと進むと、その先にチャペルがあった。
正面の壁を彩るステンドグラス。
華やかなシャンデリア。
その光を受けて輝く銀の燭台。
来賓席を飾る白い花。
チャペルの真ん中を通るバージンロード。
それらを撮影しながら、ここで父さんと美和さんが……と感動がこみ上げてくるのと同時に、俺今ちょっと怪しいかもという考えが過る。
___そのときだった。
「誰だ、オマエ?」
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