短編

□竜胆
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沖田総司side

「沖田先輩!」


後ろから聞こえる声を無視して、振り返ることなく部室へ向かう。


「沖田先輩。」


隣に並ぶとよりいっそう君の背の小ささが際立つ。


「…何?」


不機嫌そうな僕の声にビクリとしながら君は次の言葉を必死に紡ぎ出す。


「あ、あの、部活…良かったら、一緒に行きたいなと…。」


絞り出したようなか細い声。

そんなに僕に怯えてるのにどうして君は僕と一緒に居ようとするんだろうね。

なんて、わかりきってるけど。


「僕、マネージャーちゃん達と行くから先に行っててくれない?」


思ったより冷たい声が出た。

まぁ、言い方なんて例え棒読みで言ったとしても君にとっては同じでしょ?

だって大好きな僕からの言葉だもんね。


「私…沖田先輩の彼女…ですよね…?」


震える君の声が耳に心地良い。

愛を確かめる、普通の女ならウザい行動も君なら可愛くて仕方ないんだ。


「だから?たかが彼女が僕の行動を制限するの?」


ああ、小さい肩が震えてる。

今すぐ抱き締めたいくらいに可愛いよ。

でも、今僕が言った事は本心だよ。

僕は君を彼女なんて軽い立場にしたくないもん。

そんなの言葉で誓っただけの他人にすぎないじゃない?


「…じゃ、じゃあ…先に行ってますね…。すいません…。」


すいません、だって。

君は僕に謝るような事してないのに。

滑稽だね。

君はいつも僕に嫌われるかもしれない恐怖に怯えてる。

きっと君にはどんな拷問よりも、死よりも僕に嫌われる方が堪えるんだろうね。

でも僕はそんな滑稽な君すら愛おしくてしょうがないんだ。

後ろを振り返れば俯いて立ち尽くす君。

顔上げてよ。

君の顔が見えないでしょ。

ねぇ、

君は今どんな顔してるの?

恋人に自分より他の女を優先されてどんな気持ちなの?

悲しい?

怒ってる?

それとも虚しい?

そんな感情全部?

僕はね、

苦しんでほしいな。

呼吸困難みたいに。

そうしてもがいて、

最期は死んでほしいな。

だって酸素が無いと生きていけないでしょ?

そんな風に僕が無いと生きていけない君になると良い。

僕だって僕を必要としてくれる君が居ないと生きていけないんだから。

だから

ほら、

苦しんでる君の顔を僕に見せて?
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