リク小説 書く

□焦がれた手の先
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いつからだろう、キミが欲しいと思ったのは

キミという存在を知ったその時、一目惚れしたのは覚えている

そして、キミを見ていくうちに
その赤き炎に、力強く立つ姿に、強い意思を宿す瞳に心を焼かれた
愛しい、手に入れたい、僕のものにしたいと思った

でも、すでにキミは誰かのものだと知った僕は






キミを捕らえた















「テメェ、これほどきやがれ!!」


愛しいキミ……ナツはいま、僕をその鋭い瞳で睨んでいた

僕は、偶然出会ったナツを気絶させ、連れ去り、縛って逃げられないようにした

いわゆる誘拐軟禁


「くそっ、火は出るのになんで焼き切れないんだ!!」


縛ってる紐はただのロープ、ただし不燃性の

僕はそっとナツに手を伸ばす


「――っ!! 触れるな!!」


ゴウッと炎で身を包むナツ
一瞬躊躇した僕だけど、再び手を伸ばす


「なっ…なんで」


炎は僕が近づくと逆に逃げていく、僕は世界に存在するすべてのものに嫌われているから


「ひっ…」


優しく触れると、ナツは身を震わせ、目をつむり、小さくひめいをあげた


「いやだ…グレイ……」

「それがキミの大切な人の名前か」

「えっ…」


ナツの口から僕以外の名前が出ることに苛立つ


「僕のほうがそいつよりも強いのに…
そいつよりも僕のほうがナツを護れるのに…
なんで…なんでそいつなんだ」

「おまえ――」

「ゼレフ」

「えっ?」

「僕の名はゼレフ」


なんで突然名を明かしたのかわからないのか戸惑いの色を浮かべる


「呼んで、僕の名を」

「ゼレ…フ?」


促すと戸惑いながらも僕の名を呼んでくれるナツが可愛い


「ナツ…ナツ…ナツ…」

「………」


僕はナツの上に覆い被さるように倒れ
ナツは黙って僕に抱き締められる


「僕はこんなにキミのことを想っているのに、なんでキミは他の男を…
なんで僕のものにならないんだ」

「……オレは物じゃねーよ」


ナツは僕の耳元ではっきりと言った


「オレは物じゃない
確かにオレはグレイと付き合ってる
でも、それはグレイのものだからじゃない
オレはオレだ
グレイのものでも、他の誰かのものでもない」


顔を上げると、ナツの真っ直ぐな瞳が僕に向けられていた


「おまえがオレのことが好きだってのはわかった
でも、オレにはグレイがいるからそれは無理だけど…仲間としてならオレもおまえのことを好きになれるぞ?」


誘拐軟禁をした僕に向けられる嘘偽りない温かな笑顔

今、はっきりとフラれたのに
恋人の好きではなく、仲間の好きならいいと言われたのに
僕は今、グレイという男に負けてしまったのに


「……ナツ」


なんでこんなに胸が暖かいんだ


「なっ!! なんで泣いてんだよ!?」

「なんでもないよ…気にしないで……」


そう呟きながら僕はナツを縛る紐を取る

僕の内にある、光も音も吸い込むような闇を燃やしてくれたような暖かさ


「まったく、しゃーねーな」


ナツは僕を包み込むように抱き締めた


「!?」

「じっとしてろ」


驚いて抜け出そうとした僕を押さえつけるように力を込めるナツ


「落ち着くまでこうしといてやるよ」


そう囁かれ、ナツに身体を預けると、とっても安心した

まるで太陽のように闇を照らし出す

自分が太陽を独り占めしようとしていたことに気づき苦笑する






もう少しこうしてもらって、そうしたらちゃんと返そう
太陽(ナツ)がいるべき場所に






→あとがき
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