恋に落ちた海賊王

□拍手おまけ1
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船長室の掃除をしていたら、一冊のノートを見つけた。
まだそんなに古くない。表紙には「航海日誌」と書いてある。
「これ、日誌ですか?」
問いかけると、振り向いた船長がノートを見て笑った。
「ああ。オレが書いてたんだがな、毎日毎日『異常なし』で面白くねぇから、みんなに書かせてみようかと思って試しにやってみたんだよ」
「へぇ、みんなに…」
ぱらぱらと捲ってみたが、どのページも数行しか記入されてない。途中からはもう真っ白。
「見てもいいですか?」
「おう。まぁ、あんまりたいしたことは書いてねぇがな」
頷いた船長は読書に戻った。読んでいるのは裸のおねえさんがポーズをとってる写真がいっぱい載ってる雑誌。今日も船長は暇なようだった。



まず最初のページ。

『○月×日。記入者・シン
航海は異常なし。
ていうかオレのかっぱえびせん食ったの誰だ』

………………。

次を捲る。

『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし。
つかえびせんうまかった。』

『○月×日。記入者・シン
異常なし。
ハヤテてめぇは殺す。』

『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし
上等じゃねぇか。やってみろ』

『○月×日。記入者・シン
異常なし
バカのくせに挑発だけは一人前だな』

『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし
うるせぇアホ。オレのポテチ食ったのてめぇだろ』

『○月×日。記入者・シン
コンソメはいまいち。やはりポテチは塩だな』

『○月×日。記入者・ハヤテ
さっき確認したらオレの宝物庫からカールも消えてた。シンてめぇだけは許さねぇ』




「……あの。これ、シンさんとハヤテさんの交換日記なんですか?」
「ん?」
顔をあげた船長は、ちらりと日誌を見た。
「あいつら血の気が多いからなぁ。なんか理由つけちゃケンカするんだよな」
はははは、と笑ったあとはまた写真のおねえさんに目を戻す。
私は日誌をさらに捲ってみた。しばらくはハヤテさんとシンさんの口喧嘩が続く。よくまぁこんなに悪口が書けるなぁと感心していると、違う筆跡に出くわした。



『○月×日。記入者・トワ
今日、シンさんとハヤテさんが甲板で取っ組み合いのケンカをした。勢い余ってハヤテさんが海に落ち、救助に一時間かかった』

『○月×日。記入者・トワ
昨日負けたハヤテさんが、リベンジとか言ってまたシンさんを挑発していた。そののちケンカに発展』

『○月×日。記入者・トワ
昨日のケンカで食堂が大破したので、みんなで甲板でご飯を食べた。ちなみに天気は雨だった』

『○月×日。記入者・トワ
食堂の修理のため最寄りの港に寄港。そこでまたシンさんとハヤテさんがケンカを』



トワくんの日誌はハヤテさんとシンさんのケンカばかりで、私はページを何枚か飛ばした。
記入された最後のページにたどり着いて、そこで手を止めた。乱暴に殴り書きされたそれは、たった一行。




『○月×日。記入者・シン
日誌、めんどくせ。』





……………。

私はノートを閉じ、書棚にしまった。

それから箒と塵取りを手に取り、掃除を再開した。

外からは、シンさんとハヤテさんのケンカする声が聞こえてくる。

晴れた空をちらりと見て、平和なんだなぁとしみじみ思った。



END,

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