恋に落ちた海賊王
□拍手おまけ1
1ページ/1ページ
船長室の掃除をしていたら、一冊のノートを見つけた。
まだそんなに古くない。表紙には「航海日誌」と書いてある。
「これ、日誌ですか?」
問いかけると、振り向いた船長がノートを見て笑った。
「ああ。オレが書いてたんだがな、毎日毎日『異常なし』で面白くねぇから、みんなに書かせてみようかと思って試しにやってみたんだよ」
「へぇ、みんなに…」
ぱらぱらと捲ってみたが、どのページも数行しか記入されてない。途中からはもう真っ白。
「見てもいいですか?」
「おう。まぁ、あんまりたいしたことは書いてねぇがな」
頷いた船長は読書に戻った。読んでいるのは裸のおねえさんがポーズをとってる写真がいっぱい載ってる雑誌。今日も船長は暇なようだった。
まず最初のページ。
『○月×日。記入者・シン
航海は異常なし。
ていうかオレのかっぱえびせん食ったの誰だ』
………………。
次を捲る。
『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし。
つかえびせんうまかった。』
『○月×日。記入者・シン
異常なし。
ハヤテてめぇは殺す。』
『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし
上等じゃねぇか。やってみろ』
『○月×日。記入者・シン
異常なし
バカのくせに挑発だけは一人前だな』
『○月×日。記入者・ハヤテ
異常なし
うるせぇアホ。オレのポテチ食ったのてめぇだろ』
『○月×日。記入者・シン
コンソメはいまいち。やはりポテチは塩だな』
『○月×日。記入者・ハヤテ
さっき確認したらオレの宝物庫からカールも消えてた。シンてめぇだけは許さねぇ』
「……あの。これ、シンさんとハヤテさんの交換日記なんですか?」
「ん?」
顔をあげた船長は、ちらりと日誌を見た。
「あいつら血の気が多いからなぁ。なんか理由つけちゃケンカするんだよな」
はははは、と笑ったあとはまた写真のおねえさんに目を戻す。
私は日誌をさらに捲ってみた。しばらくはハヤテさんとシンさんの口喧嘩が続く。よくまぁこんなに悪口が書けるなぁと感心していると、違う筆跡に出くわした。
『○月×日。記入者・トワ
今日、シンさんとハヤテさんが甲板で取っ組み合いのケンカをした。勢い余ってハヤテさんが海に落ち、救助に一時間かかった』
『○月×日。記入者・トワ
昨日負けたハヤテさんが、リベンジとか言ってまたシンさんを挑発していた。そののちケンカに発展』
『○月×日。記入者・トワ
昨日のケンカで食堂が大破したので、みんなで甲板でご飯を食べた。ちなみに天気は雨だった』
『○月×日。記入者・トワ
食堂の修理のため最寄りの港に寄港。そこでまたシンさんとハヤテさんがケンカを』
トワくんの日誌はハヤテさんとシンさんのケンカばかりで、私はページを何枚か飛ばした。
記入された最後のページにたどり着いて、そこで手を止めた。乱暴に殴り書きされたそれは、たった一行。
『○月×日。記入者・シン
日誌、めんどくせ。』
……………。
私はノートを閉じ、書棚にしまった。
それから箒と塵取りを手に取り、掃除を再開した。
外からは、シンさんとハヤテさんのケンカする声が聞こえてくる。
晴れた空をちらりと見て、平和なんだなぁとしみじみ思った。
END,