JOJO長編

□1,真昼の逃走劇
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「............。


......ん、」

寝起きと共に入ってくる薬品の匂いに顔を顰める。
長く夢を見ていた気もするし呼吸によって鼻から入ってくる酸素はどうゆうわけか久しい気がしてならない。
僅かな明るさを瞼の向こうに感じ取って目を開ける。
(......何処?)
最初に見えたのは___白い天井。
これまた何処かで聞いたような、または見たような目覚めのワンシーン。
そこから視線をズラしていくとフワフワと揺れるカーテンを見つけた。時々垣間見える澄み渡る青空も暫く見なかったものに感じる。
ふと、視界の端で風に揺れる花弁に気づいて首を動かして見上げる。ベットサイドの小さなテーブルに花瓶が一つ、行儀良く置かれてありそこで2輪の黄色い薔薇が揺れていた。
(誰か来たのかな?)
花弁が落ちた様子もない。テーブルは拭かれきちんと清潔さが保たれている。
白い病室をキョロキョロと見回すとテーブルとは反対側のゴミ箱に赤いリボンとラッピングに用いたであろうプラスチックが丸められて入れてあった。他にはクローゼット、そして自分の腕に繋がれた管が延びている点滴台。
「!」
そこで初めてシトは自分の置かれている状況に気づいた。

「病院じゃん......ここ」

何故、病院なんていうところに来ているのか。記憶に覚えの無い状況に忙しなく目線があちこちを彷徨う。ベットから数歩歩いたところに出入り口らしきドアを見つけて、それからシトの身体は大きく動き出した。
申し訳ないと思いつつも腕に繋がれた点滴を剥ぎ取りベットから降りる。
床に足を着いた時に思った以上によたついてしまい慌てて手すりに捕まった。
「おっとと(もしかして結構長く寝ちゃってた......?)」
しっかりと立つことは出来るのを確認するとペタペタとその足で病室内を調べる。
まずドアを開けようとしたが開かなかった。鍵穴らしきものも見当たらなかったのでスタンドをドアの外へ透過させて出し外側から開けようと試みる。しかし出来なかった。
どうやら開けるためにはカードのような物が必要らしい。
一先ずドアから離れて今度は室内の家具を調べることにする。
クローゼットを開くと服が一式、綺麗に畳まれて中の中央に鎮座していた。これには見覚えがあった。
「私の服だ。誰が用意したんだろう」
頭を傾げながらも着るか迷った結果___着ることにした。
(いつまでも患者服のまんまじゃ動きにくいしね)
白いブラウスに淡い黄色のカーディガン、そしてブルーのプリーツスカート、下着が入っており着るのにはそれほど手間取らなかった。
(というか私、下着つけてなかったんだ......)
カーディガンの袖に腕を通す段階で服の隙間からポトリ、小さな白い封筒が落ちた。
「なんだろ?」
しゃがんで取ろうとしたその時、



《まったく......10年前の出来事があってというもの、次から次へと分からないことが多すぎる!能力の解明の前に問題が積み重なって研究さえまとまらないッ》



懐かしい感覚だ。《声》が今確かに聴こえた。随分と御立腹な男性の声だ。
つまり、アスタリスクの射程距離から考えると半径20m以内に何者かが入って来た、ということになる。
よりはっきりと聴き取るべく、開かずの扉の前にすり寄って耳を澄ますと微かに向こう側_廊下から誰かが来る足音が。
(この病院の人かな)
足音は重なって聞こえてくる。そのうちにはっきりとした会話が院内の白い壁に反響してきた。

「報告は?」
「今のところありません。しかしここ、杜王町にはもう着いているみたいですよ」
「そうか。......ところで、今から診る患者についての話は聞いているか」
「はい少しだけなら。でも酷い案ですよね、"薬物投与"なんて」

「!!」
声は2つ。片方は《聴き覚えのある声》だ。もう片方はちょっと若い声。どちらも男性のようだ。
それよりも、たった今、とても恐ろしい単語が聞こえた気がする。シトは頬までしっかりと密着させてドアの向こうの話を聞く。

「ですがまだ話し合いの段階です。仮死状態の彼女にそうゆう処置を行うのはどうかという研究員も多くて......」

気がつけば足音は着実にこちらに向かってきている。
会話からして足音達が話している"患者"というのは?
もし、___もしものことだが、
その"患者"というのが"シト"だった場合......それはシトの身にとって、最恐に不味いことなのではなかろうか。
そしてシトの予感通り、足音は彼女のいる病室の扉の前で止まった...!
(う、嘘入ってくるの......!?)
戸惑う彼女に構うわけもなく、ドアはピーっと高い音を鳴らしてから外からの思わぬ来客によって無慈悲に開かれた。
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