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□こちら生徒会室よりお知らせします
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私は母と父の家に一人っ子として生まれた。
名前は未玲。
いい子、すごい子、強い子って褒められるのが嬉しかった。
父が警察官の家に生まれ、駄目なことは駄目。いいことは良い。とハッキリしている家庭で。そこに不満を覚えることはなかったししっかりとした価値観を持っている両親に憧れてもいた。
だからそんな存在に一日でも早くなりたいと、近づきたいと幼い頃から何でも挑戦する癖がついて一種の怖いもの知らずにも私は成長していった。ちなみにはじめてのお使いは4歳の時。家から徒歩の距離にあるスーパーまでの簡単なお買い物。しかし幼い子供には大冒険だった。泣きそうにもなったが「よく頑張ったね」と褒めてもらいたくて泣きべそを我慢して帰った。
そのおかげもあって大抵のものには耐性がついた。
近所で飼われている大きな犬も怖くない。
ガラの悪そうな大人がいても平気だ。泣いたりしない。
困っている人がいたら助けてあげなきゃ。

だって私はいい子ですごい子で強い子だから。



まだ小さい頃、小学1年生くらいの時だったか。
ピカピカのランドセルを担いでの下校途中、道の端でぐすぐすと蹲って泣いている男の子がいた。

「どうしたの?」

声をかけると真っ赤に腫れた目がこちらを見た。珍しい、翡翠の色をした瞳。

「なんでないてるの?」

もう一度聞いた後、男の子はしゃくり上げてしばらくしてから、蚊の鳴くような声で言った。

「ぼく......いえのカギ...なくしちゃって」

またぐすぐす泣き出す男の子。

「さがしてるの?」

涙に喘ぎながら新品の学帽が頷いた。

「どうしよっ......おうち はいれなッ...、...おかあさ、きっと、おこる...!」

不安が爆発したのかひっくひっくと上ずり始めた声。

「おとこのこなのになかないのっ」

私は慰める言葉よりも叱咤の言葉をかけていた。
男の子は泣くのをやめてあっけらかんと私の方を見つめる。まさか同い年の子に怒られると思ってなかったのだろう。
目は潤んだままだったがしゃくることはやめたようだ。

「でも、おうち、かえれないよ...」

ふにゃり、と拭った瞳に涙が貯まる。

「カギをさがしてみつければだいじょうぶだよ」

提案すればその瞳は潤んだまま、まん丸の形になる。

「みつからなかったら...?」
「だいじょうぶ。みつかるよ。わたしもてつだうよ」
「ホント?」
「うん!」

頷いて見せると幼い顔がパァッと喜びに笑った。
その日は日が暮れるまで男の子のなくしたカギを探して......道路脇の側溝の下に落ちているのを私が見つけて無事にカギは男の子の手に渡った。

「ありがとう!」
「どういたしまして!」
「こんどキミがこまっているときはぼくがたすけるからね!」
「ほんとう?」
「うん!ぼく、キミみたいな"つよくてやさしい子"になる!そしたらぼくのおよめさんになって!」
「およめさん?なきむしはヤダよ?」
「もうなかない!キミをまもれるくらいつよくなる!」
「そっか、がんばってね♪」
「うん!」

今思うとあれは少年なりの一大告白だったのかもしれない。
道を曲がるまで、男の子は何度も私に手を振って別れた。
名前も知らない男の子。けれどホッとした時や嬉しい時に見せるあどけない笑顔がとても綺麗で。


私はずっとあの日の事を忘れはしないだろう。
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