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□ふぁーすとおつきさまでい
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「お、高尾か。どうしたんだ今日は朝練も来ずに。キャプテンが大分心配していたぞって……聞いて……おい!」
「あ、聞いてる聞いてる……。心配しなくていいよ…ちょっと腹痛いだけだから」




今日、高尾は朝練に来ていなかった。
珍しいことで、大分心配していた者もいる(それが俺だなんて死んでも言ってやらないが)。

そんな高尾と廊下ですれ違ったのは、HRの開始が近い時間だった。
最初は気づかなかった。
顔がうつ伏せになっていたし、比較的きちんと穿いていたスラックスが俗に言う下げパン≠セったから。
フラフラの高尾は眉間に皺が寄せられていて、窓のさんに捕まってやっと歩いている状態だった。


「大丈夫じゃないのだよ!ほら、まったく………」
「大丈夫だって…。あー………うん、引いてきた。もう歩ける」
「…………は、」


いきなり表情が豹変し、いつもの顔へと戻る。
腰の辺りをさすってはいたものの、大丈夫そう。


「とりあえずHRが始まる。行くのだよ」
「うぃーっす」


















6限、現国。
俺の前の席は高尾だ。
いつも頬杖をついて微動だにしないあいつが、今日は一度も寝ていない。
朝の様子から察するに、寝ないのではなく寝れないのだろう。
休み時間に声をかけようにも、即座にどこかに行ってしまっていた。
今日は勿論部活がある。
参加出来なかったとしても、顔くらい出すだろう。
そこで問いただしてやればいい。


「せんせー…」
「ん、高尾か?どうした」
「腹痛いんで保健室行っていいっすかー」
「おう、いいぞ。緑間、ついて行け」
「わかりました」


いきなり声をあげるから何かと思った。
どうやらいい加減保健室に行こうと思ったらしい。


「行くのだよ」
「おう……」












とて、とて、と一段ずつ階段を下りる。
時折踏み外し、辛そうに顔を歪めていた。


「高尾、本当に歩けるのか?支えてやるが」


保健室に行く奴を連れていく時俺がよく使われるのはこの理由からだ。
体格がいいからフラフラでもどうにかなる。
最悪の場合横抱きにして行く。
支えを断ったのは高尾だった。
自分から歩ける、と。


「うーーーー………ん。も、すぐ引くから」
「本当に大丈夫なのか…」
「うーーーあ…………よし。行こ」
「まったく、この変わりぶりはなんなのだよ」
「俺もわかんねー…。とりあえず大丈夫なうちに、」


そこからはいつも通りで、今までの二倍の速さで進んでいく。
保健室に入ると、真っ先に椅子にゆっくり座った。


「せんせー、腹痛いです」
「あら高尾くん、珍しいわね。変な物でも食べたの?」
「それとは何か違って……波があっ、て………っ」
「高尾っ?!」
普通に話していたのが、急に顔を歪め
腹を押さえて机に伏せた。
いつもへらへらしている高尾のこんな姿は色々と衝撃的だ。
苦しそうな呻き声をたまに出し、それ以外は歯を強く食い縛り、痛みに耐えているようだった。
保険医の質問に首を振って答える様は、酷く痛々しい。


「よくそんな状態で授業受けれたわねー、高尾くん」
「も、体勢維持だけで、」
「やせ我慢をするからなのだよ」
「ひで、しん、ちゃん」
「まあでも喋れるようになったところを見ると引いてきたようね、ちょっとこっちいらっしゃい」
「はい……」


キャスター付の椅子をコロコロと転がし、養護教諭の方に移動する。
俺は立ったままだった。


「緑間くんは………いいわ、いてもらいましょう。高尾くんとよく一緒に居るし。とりあえず、説明を一通り聞いてね、高尾さん?」
「!せんせっ…」
「………さん、とは何なのだよ」
「あら言っていなかったの?高尾くん」
「あ、え、っと……」








「高尾くん、女の子なのよ?」









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