krk短編

□アップルパイのファーストキス
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小さくて、白くて、ふわふわしてて、甘いものがだいすきで、いつも俺といっしょにお菓子食べてくれて、かわいい子だなって思ってた。

むかし誰かから聞いた、『女の子はお砂糖とスパイス、素敵なもので出来ている』って、おなまえちんにぴったりだなぁって。
蜂蜜と、メープルシロップと、苺ジャムなんかを真っ白なムースに混ぜて、あまぁいチョコレートや飴細工でコーティングして、ほんのちょっぴりシナモンが入ってるような、そんな女の子。

お菓子に例えたら絶対にそんな感じだよね、なんて考えて、いつもおなまえちんを見てた。




でもこのまえ、俺知っちゃったんだ。おなまえちん、シナモンが苦手なんだって。むかしから身体が弱くて、色んな飲み薬を処方されて、いーっぱい飲んできたんだって。
出されるのは粉の漢方薬が多くて、そーゆーのは大体シナモンみたいな匂いとか味がするんだって、おなまえちんが教えてくれた。

いつも風邪対策だなんて笑いながらマスクをしてたのも、実はほんとうに風邪ひいてたからとか、気づけない俺ってほんと、ばか。




「紫原くん、なに食べてるの?」

「おなまえちん。あー……コレ……」


もうすぐ部活だよって呼びに来てくれたおなまえちんが、俺の食べてる菓子パンに目を止めた。
今日は体調いいみたい。

俺が食べてるの、普通に購買で売ってたアップルパイなんだけど……リンゴのコンポートとかって、ほとんどシナモン使われてるよね。何となく舌先に味残ってる気がするし。

パッケージ裏の食品表示を見てみると、やっぱり『シナモン』って書いてあった。
ちぇ。おなまえちんリンゴすきなのに。どうせならカスタードとか使ってよねー。(俺が食べて美味しいなって思うものはおなまえちんにも食べてほしいんだけど、こればっかりは仕方ない。)


「ダメだ、これシナモン入ってるー」

「シナモン?」

「うん、おなまえちん、苦手なんでしょ?かんぽーやくの味に似てるから」


おなまえちんはぱちくり、目を瞬かせたあと、「……覚えててくれたんだ」って呟いてた。当たり前じゃん。忘れるわけねーし。だって、おなまえちんのことだよ?


「別に、食べれないわけじゃないんだよ。匂いとか、味とか、ちょっと苦手なだけ」

「それって、イコール食べたくない、イコール嫌いなんじゃんー」

「んん〜……」


おなまえちんは困ったように苦笑をもらして、俺のアップルパイに手を伸ばしてきた。

相変わらず、おなまえちんの肌は白い。手もおんなじ。生クリームみたい。
とか思ってたら、おなまえちんが俺の食べてたアップルパイにかぷり、かぶりついた。


「っわ、何してんの」


慌てておなまえちんの手からアップルパイをひったくった。
でももう遅かったみたいで、おなまえちんは眉を寄せて口をモゴモゴさせてる。


「………………」

「だからシナモン入ってるって、言ったのに〜」


必死になって咀嚼してるおなまえちんかわいいけど、見てて何となく嫌な気分になる。ニガテなものの味がなかなか忘れらんないの、知ってるからかな。
おなまえちんの口の横に引っ付いてたパンくずをとったげたら、おなまえちんはやっとアップルパイを飲み込めたみたいで、どうだ!って得意気な、でもちょっと疲れた顔して俺のこと見た。


「う〜ん……まぁ、食べれるのはわかったけどさぁ……。何で無理すんの」


おなまえちんがイヤな思いしてんの、俺、見たくない。
苦手なのに食べるなんて、おなまえちんもばかなの?(……でもやっぱ、可愛い。ものすごぉく)


おなまえちんの指が、俺が触ったあとの頬っぺたをなぞった。


「だってね、」

「んー?」

「紫原くんが美味しそうに食べてるもの、私も食べたいなって、思うんだもん」


伏せられたおなまえちんの目元は赤らんでいて、あ、照れてるって思った。可愛い。何だかどうしようもないくらい、喉の奥が締め付けられる。


おなまえちんのお砂糖みたいな髪の毛、なでなでしたい。
おなまえちんのマシュマロみたく柔らかそうなからだ、ぎゅうってしたい。
おなまえちんのさくらんぼみたいな口に、ちぅってしたい。


制服の袖で、唇を拭う。
気づいたら俺、おなまえちんの髪を撫でて、ぎゅうってして、ちゅう、してた。


「………………」

「………………」


俺もおなまえちんも何も言わないまま、ゆっくり時間が流れた。
おなまえちんはびっくりした顔のまま固まってて、飴玉みたいに透き通った目に俺を映してる。

俺も何も言わなかったけど、頭ん中で実は、おなまえちんの唇、カスタードの味する〜とか考えてた。(いま使ってるリップクリーム、カスタード味だって言ってたっけ)


カチンと、校舎の時計が針を進めた。


「……リンゴの味、した」

「え」


第一声がそれ?
ちょっと、いや、すごく気が抜けた。おなまえちんらしいや。

ちゃんとちゅうする前に唇、拭ったんだけどなぁ。シナモンの味もしたかなぁ。いやな気分にさせちゃったかなぁ。


「ごめんね〜、おなまえちん、いやだった……?」


自分の口を拭ったのとは逆の袖で、おなまえちんの唇を拭いてみる。おなまえちんはやっぱり何も言わなかった。
でも顔は真っ赤で、瞬きを繰り返して俺から視線を逸らしたのを見て、いやじゃなかったのかなって思えた。

おなまえちんちっさいから、ぎゅうすると頭が俺の胸に埋もれちゃってる。
シナモンやっぱりキライ?って聞いてみたら、おなまえちんは、首をぷるぷる横に振った。
紅い唇がゆっくり動く。


「紫原くんからのは、……すき」


俺の背中に回そうとして、必死に伸ばす腕が可愛かった。

恥ずかしそうに、赤い顔を隠そうとしてるのが可愛かった。

俺のすきなもの、解ろうとしてくれるのが可愛かった。


「ねーねー、おなまえちん、知ってる?」

「?」

「リンゴとカスタードって、すっごく相性いいんだよ〜」


おなまえちんの顔を覗き込んで、今度はほっぺにちゅってした。おなまえちんは、やっぱり甘い。


とどのつまり、俺とおなまえちんは、リンゴとカスタードだったんだ。





アップルパイのファーストキス





2014.01.29
 

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