krk短編

□おんりーわん
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「雪、やまないなぁ」


2月14日、夜9時まえ。
部屋の窓から見える景色は朝とあまり変わりない。

明け方から降り始めた大粒の雪は、昼間こそそのあしを緩めていたのに、いまはすっかり大降りに戻ってしまってた。


せっかく、今日はバレンタインだったのに。

私の手元には、渡せなかったチョコレートが一箱。
料理が得意なわけじゃないから、一生懸命練習して、やっと完成させたもの。涼太くんに喜んでもらえるように、美味しいって言ってもらえるように、頑張った。

ほんとうは直接渡したいのだけど、あいにく彼はモデルのお仕事が入ってしまったらしくって、今日は学校に来てなかった。


さっき、『お仕事おつかれさま』とだけメールを送った。返信はない。
涼太くん、もう寝ちゃったかな。それともまだ、お仕事かな……。

ふと、携帯に目線を向ける。
いままで静かだったそれが着信を告げたのと、私が肩を揺らしたのは、ほぼ同時だった。
ディスプレイに表示されているのは、涼太くんのなまえ。
私は迷わず、考えることもなしに電話口に出た。


「もしもし!」

『っわ、出るのはや!』

「う、あ、ちょ、丁度ケータイ弄ってた!」

『ははっ、そっスか』


涼太くんは上機嫌そうにクスクス笑った。涼太くんの声すきだなぁ。ううん、涼太くんなら、ぜんぶすき。
「どうしたの?」って聞いてみるけど、涼太くんから返ってくるのは「んー?」なんて、答えをはぐらかすような、答える気がないような声だけ。不思議には思うけど、涼太くんからの電話が嬉しくないわけなくて。
なぜか息の弾んでる涼太くんとお喋りを続けた。


「お疲れさま。今日はバスケできた?」

『いやぁ、撮影場所近くにストバスコートあって、そこでちょっとやったくらいっスわ』

「たいへんだねぇ」

『今日が部活オフでよかったっス』

「ふふ。涼太くん、もうおうち着いた?」

「ん、まだ帰る途中っス!」

「……あ、わかった。ロードワークしてるでしょ」

「おぉっ、さすがっスねっ。半分あたりっス」

「息上がってるもん。……あれ、でも半分って、」

「っ着いた!」


何が、と聞くより前に、涼太くんの声が届いた。
ひとつは電話越しに、もうひとつは、窓の外から。


「おなまえっち、外見て!」


言われるがままにカーテンと窓を開けば、そこにはやっぱり、涼太くんがいた。


「どーしても会いたくて、来ちゃったっス!」


気づけば私は携帯を手放して、適当にアウターを手にして、でもしっかりチョコだけ抱き締めて、一目散に玄関へと駆けていた。
お母さんがどうしたのって言ってるのが聞こえていたけど、それより私の頭は涼太くんのことでいっぱいで、足は止まらない。


勢いづいてバン!と開けた扉の先には、幻覚のしっぽを千切れんばかりに振る涼太くんがいた。


「涼太くん!」

「あ、おなまえっち、しーっ」


涼太くんに駆け寄ると、長いきれいな指を一本、口許に立てられた。そうだ、いまはもう夜だった。
涼太くんはたぶん、お仕事の現場から、同じ服のまま走ってきてくれたんだ。
「撮影、たまたま近くだったんスよ」なんて、優しい嘘。だって私のおうちの近くに、ストバスコートなんてない。それに涼太くん、汗だくだもん。

羽織ったアウターの袖で涼太くんの頬っぺたにあった汗粒を拭う。
涼太くんが照れ臭そうな、嬉しそうな笑顔を見せてくれるものだから、私も嬉しくなった。


「……そのチョコ」

「ん?」

「もしかして、俺のために、っスか?」


涼太くんの視線を辿った先には、私の抱えるチョコレートの箱。
受けとる前からそんなに目をキラキラさせて見てるからおかしくって、ちょっとだけ笑っちゃった。涼太くんはかわいい。


「もちろん!他に渡すひとなんて、いないよ」

「お、俺もっおなまえっち以外のひとからのチョコ、要らないっスもん!」


嬉しくて、幸せで、私の顔はきっと締まりなく弛緩しきってると思う。涼太くんにはそんな顔見られたくなくて、涼太くんの大きいからだに抱きついて誤魔化した。

涼太くんは汗が、なんて気にしてるけど、私は平気だもん。涼太くんだから。涼太くんのこと、だいすきだから。

しばらくしたら涼太くんは観念したみたいで、私に合わせるために腰を折って抱き締めてくれた。


来年は今年以上に美味しいチョコレートを渡したいな、なんて、まだちょっと気が早いかな?





おんりーわん





2014.02.18

きぃくん遅れてごめんね(´;ω;`)ぶわっ

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