krk短編

□とある夢のおはなし
1ページ/1ページ


今日ももうすぐ終わる。
私は脱いだ上着をハンガーにかけながら思った。

携帯が鳴る。画面には、『紫原敦』の文字が浮かび上がっている。私は躊躇なしに通話ボタンを押した。


「もしもし」

『………………』

「むっくん?」


端末の向こうからは何も聞こえてこない。なまえを呼んでみるけれど、むっくんから返事はない。

「どうしたの?」そう問うと、むっくんはやっと口を開いた。


『おなまえちん』

「うん」

『……いま、おなまえちんの家の前にいるんだー……』

「えっ」


慌てて部屋のカーテンを捲った。
確かに家の前に、一際抜きん出た身長をもつ紫色の頭がある。けれどむっくんはこちらに背を向けていて、顔色なんて伺えない。

何だか様子がおかしい。そう感じた。


「ちょっと待ってて、すぐ行く、『おなまえちん』」


私の声を遮ったむっくんの声色は、すごく切なそうだった。むっくんが小さく息を吸い込んだのがわかった。
無言で、むっくんの言葉の続きを待つ。


『……おなまえ』

「……うん」

『おなまえが、ほしい』


確かにむっくんはそう言った。
続けて、おなまえが足りない、とも。

頬が熱をもつ。携帯を持つ手が弛緩する。


お互いに何も言わないままだけれど、むっくんは通話を打ち切ったりはしなかった。
これは、私に選べ、と?


(どうしよう……私、キスなんてしたことない……)


へなへなと座り込みそうになる脚と、思考を放棄したがっている脳を叱咤した。


色々な考えが頭をぐるぐる巡る。でも、私が持ち合わせてる応えは最初からひとつしかない。


「いまから、行くね?」


携帯の向こうで、むっくんが息を詰まらせた。
『……ん』小さな返事を残して、通話が途切れる。

変わらず頬は火照ったままで、けれど思考はこれからのことを想像して、胸が苦しかった。


私は上着だけを持って、むっくんの元へ急いだ。





2014.05.11

こんな夢を見たんです。ほんとうに。
だから色々辻褄があってないんです←
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ