□夢でもあなたを想う
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*しりあすちゅうい











なまえの手には、まるで白鳥がいまにも羽ばたかんとする形を模した花がある。
このサギ草という植物、名からは花など想像できないが、緻密な美しい花なのだ。

花言葉は「繊細」、「無垢」、「芯の強さ」。これを見る度なまえは、彼のことを思い出す。


「……多々良」


小さく呟き、なまえはカウンター席を立つ。向かいでグラスを磨いていた草薙がどうしたと問うた。もうすぐ、11時45分、なのだ。


「ちょっと、出てくる」

「……あんま遅ぉならんようにしぃよ」


なまえはそれに片手を軽く上げて応え、バーを出た。


一年前の今日、彼は死んだ。
肌寒い12月の、吠舞羅の小さな姫君の誕生日を翌日に控えての出来事だった。

たった22年。儚い人生だったと思う。
十束多々良という男はいつも飄々としていて、ひとの心の内側にするりと入り込んできて、そして「へーきへーき、何とかなるって!」といつも笑顔を浮かべていた。
そんな彼を愛すようになったのはいつからだったか。


なまえは自嘲気味に「……は、」と小さく溢した。
11時45分まで、あと3分。


なまえが辿り着いたのはやはり、彼の亡くなった廃ビルの屋上だった。ここから、アンナの誕生日のために夜景を撮りに行くと言っていた。なまえと十束が交わした、最後の会話だった。


「……ねえ、多々良」


この1年で、色々あったよ。
私はやっと、まともに食事できるようになったし、草薙さんも本腰入れてバーの営業ができるようになった。
尊さんは、元気?ふたりとも、そっちで……もしかしたら神様を、困らせたりしてない?


思い出す、暖かな日々。
それは確かに、十束がいたから成り立ったものだった。


なまえの手のひらの、サギ草が風に揺れる。まだ事実を受け入れきれてない心がやっと用意できた、追悼の花。

夜風に逆らうように、なまえはその花に火をつけた。どういう訳か王がいなくなっても、周防尊に授かった能力だけは健在らしい。
小さな炎が小さな花を侵食し、灰へと変えるのを、なまえは涙で揺れる瞳で見届けた。


「多々良、だいすきだよ」


手のひらの灰と化したサギ草に息を吹き掛け、夜空へ飛ばす。

赤い光がポツポツと浮かぶ夜景と、満天の星空の間に、それは吸い込まれていった。


……そういえば、あの花にはもうひとつ、花言葉があった。

「夢でもあなたを想う」


夢で願えば、彼は私に会いに来てくれるだろうか。


なまえは頬を伝うものを拭わない。


今夜、布団に入ったら、多々良に会えるだろうか。


吐き出した息は真っ白で、すぐに外気と解け合ってしまう。


多々良、多々良。
閉じたまぶたの裏に、彼の笑顔が見えた気がした。





夢でもあなたを想う
(あなたの居なくなった、私の心)
(そこはどうしても埋まらない)


2013.12.07 23:45
Please accept my condolences.
 

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