この手の中に、

□いつもの日常
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職員室を後にしそのまま学校を出た
俺たちの学校は山を切り崩してその上に建てられている
校舎の前にはグラウンドがあってその奥、少し離れたところに海が見える
授業中は飽きもせずに眺めまくってる
景色が最高なんだよ、ここは



「長引いたねー先生の説教
学校終わってすぐ行くつもりだったのにー」

「急ぐ事もないでしょ
飲めたらいいじゃない」


前を歩く2人が夕日で影を作っている
それを追いかけるように後ろを歩いた


「新作どんなだっけ?」

「確かコーヒー系のじゃなかった?
甘めのね」

「あー桜好きそうだねー」

「名前で呼ぶんじゃねえ」

「何でよ?いいじゃない桜って綺麗で」

「そういう問題じゃねえんだよ」


名前の話は嫌いだ
女っぽいってのもあるけど嫌な思い出が詰まってる



話をしながら影を見続けた

ハッとしたように前を向いた

変わらずに前の2人が話をしている




空はオレンジってひとことで表せないよく分からない色をしていて
いつもの青じゃなく、色んな思いを混ぜたみたいで
その色を作り出してる元をたどる


綺麗な夕日が上がっていた
思わず立ち止まって見入るぐらいに綺麗だと
そう純粋に思った

赤いが強く燃えるような感じではなく繊細で儚いイメージを起こさせる
不思議な気分になった
いつも見ているのとは少し違って、何が違うのかよく分からなくて
それでも見ていたいと、そう思った



「そんでさー桜ー」

「…………。」

「桜ー?」



影が動いて前の2人が振り返ったのが分かる


「何見てんだ?」

「……別に」

顔を正面に向けてそう言った
目は合ってないけど

「馬鹿には勿体なすぎるくらい綺麗ね」

「………。」

くすくすと笑いながら神一が言った
これは馬鹿にされてんのか?

「名前の事?確かに桜って綺麗だよなー
外見も内面も桜みたいだよなー」

こいつは本物の馬鹿らしい
そんなに長くないはずの言葉が最初から最後まで分からなかった

「…しょうもねえ事言ってんな」

2人を追い越して先に行く
後ろで笑ってるのが振り返らなくても分かる

「本当黙ってればマシなのにね」

「おっと琴ちゃん桜に惚れ」

「殴るわよ」

「すみません」

無駄に長い階段をおりながらそんなやり取りを聞き流して

また空を見た
今度は上を向かなくても正面には海と赤みがかった空が勝手に写り込む
さっきとはまた違う色のぶつかり方
でもやはりいつもと同じに見える
それでも綺麗で、理由はやっぱり分からなくて


後ろの2人は適当な雑談を終始をしていた
よくもまあ人の名前であそこまで会話が続くもんだ


そして俺は我慢できずに立ち止まって携帯を出し
色がぶつかりあっているその部分を切り取った
カシャッと音が鳴って保存出来たのを確認してから
何事もなかったかのようにまた歩き出す
後ろの2人がまた笑ったのを背中で感じた








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