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□主将の悩み
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海常vs誠凛の試合も100対98で誠凛が勝ち、幕を閉じた。







応援席で見物していた珠里と美弦の距離は少し縮まったものの、まだどことなくぎこちない。








それは周りの目から見ても分かるほどで。








日向 順平 side









「珠里と美弦どうした?」







一番近くにいた俺が様子を伺ってみるが、2人はお互い全く違う方向を向いている。







2人の仲が急に悪くなったのはあの時、体育館にいたから何となく分かる。







だが、昨日はいつも通りだったはず。








今日の練習試合で何か気に入らないことでもあったのか……?








そう思うと急に不安が込み上げてきた。







俺は男子バスケ部の主将だし、女子バスケ部のことには口を出さない。





あっちには立派な監督がいるし、チームを引っ張っていく主将だっている。








俺が口を出したところで、何か変わるわけでもない。








だが……








その以前に女子だろうが、同じバスケをしている仲間でもあり可愛い後輩たちなんだ。






俺らが支えないで誰があいつらを支えてやるっていうんだよ……っ!?








俺は遠くにいたコガを呼んだ。







コガに事情を説明すると、「日向が気に掛けるなんて珍しい!!」なんて言うから頭を軽く叩いてやった。









「お前、美弦のこと好きなんだしちょうど良い機会だろ?」







俺がそう言うと、コガの顔はみるみる内に真っ赤になっていく。
どうやら図星のようだ。







「なっ、いきなり何言ってんだよっ!?」







「あー、はいはい。文句なら後でいくらでも聞いてやるから早く美弦のとこ行けよ」







「…………おぅ」








俺に背を向け、美弦の方に歩み寄るコガの姿を見て思わず笑みが溢れた。








全く、素直じゃねぇ奴……。







チームメイトを気遣うのも主将の役目。






俺は持っていたボールを後ろにいた珠里に投げる。






突然のことに驚きつつも、珠里の右手にはしっかりと俺が投げたボールがおさめられていた。






視野が広いって本当だったんだな。









「……いきなりですね、日向先輩」







「それはお前が浮かない顔ばっかするからだろ?」








俺は悪くない、と付け足す。






「心配…してくれてるんですか?」







その時、珠里の表情が曇ったのを俺は見逃さなかった。







「…心配してる。何か悩み事か?」







「今日の先輩、妙に優しいですね」







「妙には余計だ、ダァホ!」




「いてっ!!」








額を小突くと、珠里が顔を歪めた。






俺は、そんなに痛かったか?と珠里の目線と同じになるようにしゃがみ、顔を覗き込む。







珠里は小突かれた額を左手で押さえ、今にも泣きそうな状態だった。






「っおいっ、大丈夫か!?」







頭を優しく撫でてみるが、一向に状況は変わらない。







女、泣かせたことねぇしどうしたらいいんだ…!?







ふと、俺の頭に監督の姿が浮かんだ。







女子同士なら……っ!







そうと決まればそく実行を試みる俺は何故かその場から動けない。








何が起きたんだ、と思い違和感を感じる自分自身の袖に視線を落とした。







「……珠里?」








そこには、俺の袖を掴んだ珠里の姿が。






「悩み事というわけではありません。ただ、自分何かが主将やってて良いのかなって」







主将という言葉は誠凛の中じゃ、誰よりも俺が知っている。







もちろん、言葉の重みも全部。





珠里は1年生で主将。おまけにキセキの世代をも上回る無色の帝王のキャプテンでもある。かなり苦労することもあるに違いない。








「部の空気を乱すのはいつも私か美弦なんです。もし、仮に私以外のチームメイトが喧嘩をしたりします。今の状態なら私は何も出来ません。しかもうちには立派な監督がいますし……主将なんかいなくても良いんじゃないかって」








声が震える珠里の肩に左手を置き、右手で頭を撫でる。







「それを言うならこっちにだって立派な監督がいる。 誰か1人でも抜けると、チームに穴が開く。ましてや主将がいないなんて前代未聞だ。主将だからって、そんな気負いしなくても良いんだよ。お前はお前だろ? お前の力を認めてくれたからこそ、主将を任されたんじゃねぇのか?」








俺が言い終わったあと、珠里は「ありがとうございました」と俺に一礼をした。








「やっぱり、日向先輩に相談してみて良かったです。今から美弦と話をしてきます」








慌てて美弦の方に行こうとした珠里の腕を思わず掴む。







「……? 日向先輩…「今は行くな」え?」







状況を飲み込めていない珠里は首を傾げるが、そのまま俺の方に引っ張った。







「ちょっ、うわ……っ!」








バランスが取れず、よろめく珠里をしっかり受け止める。







「今、お前がコガ達の方に行くと話がややこしくなるから行くな」






「美弦と小金井先輩って、そういう関係でしたっけ?」







見て気付け、ダァホ。







「あー、美弦も小金井先輩のこと好きみたいですし両想い…みたいですね」







両想い、俺の心臓がドクリと跳ね上がった。








いつかお前とも……







自然と隣にいる珠里を見据える。







「……俺っ、お前の…「日向ーっ、珠里っ! 帰るってさーっ!」……はぁ」








声の方に目を向けると満面の笑みの伊月が俺達に手を振っていた。







伊月、良いところで邪魔しやがって…!







無言の圧力を伊月に放つ俺に対して、珠里は





「先に行ってて貰えませんか? 後で必ず行くので……」






と、言い体育館から外に飛び出した。
辺りを見回すが、美弦の姿も見えない。







そんなことを考えている内にすぐ近くまで伊月達が来ていた。









「日向、コガと美弦!! 付き合い始めたってよ!!」








「そうか。よかったな、コガ」






「へへっ、ありがと……」






照れるコガの後ろで黒子は俺に口パクで







「早 く し な い と 取 ら れ て も 知 り ま せ ん よ ?」







と、妖艶に微笑む。








うるせーっ、分かってるっての!







てか何でお前が知ってんだよ!?







いくつかの疑問を残しながら、海常高校体育館を後にした。





日向 順平 side end
 

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