Fragment of SAKURA
□05 居心地
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近藤と山南、井上が大阪遠征から帰ってきたら、私の宴会をしてくれるらしい。
いつ決まったのか知らないが、隊に認められたようで嬉しかった。
食事もこれまでは、自室で食べていたのだが幹部と一緒に食べていいようになったし、土方さんに明日、沖田さん率いる一番組の巡察に同行してもいいと許可もいただいた。
ここまでされると、なんだが千鶴に悪い気がする。
千鶴はまだ軟禁状態が続いていて、部屋から出してもらえていない。
私は気を遣って今まで話し相手になっていたのだが、これからはそんな暇も取れそうにない。
とりあえず、巡察中に何があるかわらかいから油断は禁物だ。
巡察にも出るようになるなら、給金は私にも出るのだろうか。
(もし、もらえたら千鶴に団子でも買ってきてあげよう)
そんなことを考えていたのは、夜。
仕事を終えて、1人縁側に座るのが私の日課。
月を見ながら、ぼーっと今日一日を振り返る。
死と隣り合わせである場所、ここは新選組。
男として生きると言ったあの日から復讐のことだけは忘れずに生きてきた、
なのに、こんなにいい人たちに囲まれてしまうと、今まで孤独だった分安心してしまう。
そしたら、今までの自分の決意やら、意志がだんだん平和ボケしていきそうになってきた。
だからこうして、目的を1人再確認しているのだが、明日から巡察に同行出来ることもあるし、その必要もなくなる。
あの蘭方医に近づけると思うと、自然とチカラが入る。
「よぉ、今日も月見てんのか?」
声をする方に振り向くと、徳利と猪口を持った原田が居た。
猪口は2つ。私がいることを知っていたのか?
『今日"も"って、知ってたんですか、俺がここにいること』
「あぁ、よく見かけたからな。今日は新八が珍しく芸妓と上手くいってよ、平助はすぐに酔っ払っちまったし、先に帰ってきたんだが、呑み足りなくてよ。月見酒もいいもんだろ?」
『やっぱ島原行ってたんだ、居ないなって思ったら大抵巡察じゃなかったら島原行ってるよな』
「おいおい、そんな頻繁に行って…」
『行ってる行ってる。まぁ別に悪いなんて思ってないけどさ』
「まぁ、いつ死んじまうかわかんねぇんだからよ、そのへん分かってくれや。 お前も呑むか?」
いつ死ぬかわからない。
その言葉を軽く口にした原田。
これまで旅の途中で死と隣り合わせの場面は何度も訪れた私であったが、 真剣でやり合う場面が無くなっていた今、そんな言葉吐けないぐらい私は安心しきって生活していたようだ。
急に黙った私に、少し気にしながら原田は顔を覗き込む。
猪口に酒を次ぎ、原田がどうだともう一度すすめてくれたが、断るべきか?でも…少しだけならいいかな。
『んじゃ、1杯だけもらおかな』
そう言うと、原田は私の分を次いでくれた。