Fragment of SAKURA
□14 迷道
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隊士不足に悩んでいた新選組も、大阪から藤堂の知り合いである伊藤甲子太郎とその弟子達が来たことにより、大分人数が増えた。
しかし、その伊藤の存在はあまり幹部からはいい評判ではなかった。
「伊東さんは尊皇攘夷の人間と聞いたが、よく新選組に名を連ねる気になったものだな」
「長州の奴らと同じ考えってことか。そんな人間が俺らと相容れるのかね」
私はそういう政治的な、思想などはよくわからないが、とりあえず皆苦手なのだろう。
しかし、驚いたのはこの後に呟いた山南の一言だった。
「…伊東さんさえいてくれれば、私がここでなすべきことも残りわずかだ」
山南はそう言い残し、部屋を後にした。
怪我のため、剣を握れなくなった彼は伊藤に総長の座を譲るような言い方を最近するのだ。
私達はそんなこと望んでないのに。
「山南さん…最近隊士にも影で言われてるらしいしな」
『…そうなんですか。』
人を拒絶するように最近言葉を交わす機会もないように、部屋にいる山南に私はどうしようもできなかった。
千鶴は気を遣ってお茶などを運んでるようだけど、いい受け答えはされてないようだし。
私というと原田とは気まずい関係が続いてるわけだし、他に私を悩ませる原因も一つ増えるし…。
「ねぇ、秀也君は?秀也君はどこにいらっしゃるのかしら?」
甲高い声で私を呼ぶのが、嫌われている伊藤である。
『…はい、俺はここにいますが』
「あら、そこにいたのね。ねぇ夜は非番かしら?」
『えっと、夜は…』
「ああ、伊藤さんすまねぇ。俺達との約束が先に入っちまってる」
そう横から口を出したのは、永倉だった。
「そうなんだよ、伊藤さん。」
「だからまたの機会をよろしく頼むよ」
藤堂、原田も続けて言い、不機嫌な顔をしたまま伊藤はその場を後にした。
『俺…約束してましたっけ?』
「なーに言ってんだ。助けてほしそうな顔してやがったから言ったんだよ」
永倉はそういって嬉しそうに笑うのだった。
『やっぱりそういうことだったんですね、ありがとうございます、助かりましたよ』
「ってわけで、ちょっくら今日は呑みにでもいこうぜ、なぁ!左之!」
「あ、あぁ。そうだな。」
原田の名前を聞き、意識してしまうがここは平然に…と言い聞かせて、楽しみですと言っておいた。
あんまり顔見て言えなかったのだけど…。
私も部屋を後にし巡察に行く準備をする。
今日は斎藤と巡察である。