Fragment of SAKURA
□05 居心地
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『…久々の酒だ。』
「お前、呑めんか?」
『うん、一応。左之さん達みたいに浴びるほど呑んだことないけど、下戸ではない』
始めて酒を口にしたのは、父様と。
ふと頭に浮かぶ父様の顔が懐かしくて、つい涙腺が緩みそうになる。
ダメだ、泣かないと決めたんだ、と切り替えて話を変える。
『そういや俺。明日から巡察出るんだ。』
「おっ、そうだったのか。明日っつーことは総司か?」
『うん、邪魔だったら置いてくからなんて言われたけど、あの人本気か冗談かわからないからちゃんとついて行かないとね。』
「心配すんな、お前の腕なら大丈夫だ。」
『いや、俺が心配なのは…斬り合いもそうなんだけど、地理がわかんないからよ。もし迷ったら二度と戻れない気がするんだよ』
私は京についた途端、いろいろあったから全く町を歩いたことがないのだ。
「そういや、そうか。俺と巡察行く時は、いろいろ案内してやるよ」
『本当か!嬉しいな。団子屋でも教えてくれよ』
「団子?お前、甘いの好きなのか」
『いや、俺じゃなくて千鶴にな。喜ぶかなって思ってよ。給金出たら買ってやろうって思ってんだ。』
「ふ、お前、根から優しい奴なんだな。」
原田は、また私の頭に手を置くとくしゃくしゃに撫でる。
大きな掌は私の頭を掴めそうなぐらいだし、はやり何度やられても慣れるものじゃない。
少し赤く染まった頬。酒のせいか、それとも?
それから、いろんな話を聞いた。
新選組が出来る前の話、近藤さんの話…。
原田の切腹話を聞いた時は驚いたけれど、巻いた晒しを外して見せてくれた傷は生々しいものだったけど、いろんな思いがあると言われると、この人はすごい人だと関心する。
知らない間に話し込んでしまいそろそろ寝るかと切り上げる。
立ち上がると久しぶりに呑んだから、少し足元がふらついた。
倒れそうになる私を受け止めるがっちりと鍛え上げられた腕。
「…ほんと細いなぁお前は。新八のを分けてやりてぇよ」
『す、すいません。俺も筋肉つけたいんですけど、全然つかなくて』
「後もうちょい背があったら、男前なのによ。」
『っ!!それは違いますよ、左之さん』
「まぁ島原に行ったらわかるよ。多分芸妓達の的になるだろうよ。んじゃぁな」
私がそんなわけないのに、ほんと人を褒めるのが上手いんだから、あの人は…。
そう言う、原田もどうせたくさん芸妓に囲まれて尺してもらってるんだろうなぁ。
なんで左之ばかりなんだと新八さんが嘆いているのを聞いたことあるし。
部屋に入っていく姿を見送ってから自室へと私も入る。
寝着に着替えるために、着物を脱ぐと、胸にきつく巻きつけた晒しに手をかける。
この時だけは素早く着替える、女であることが身にしみて感じるから…。
けれど、今日は違った。
細いと言われた腕を見つめながら自分の性別を恨んだ。
『…私が…、…俺が男ならば…』
悔しさやたくさんの気持ちが入り混じり自分の腕を掴み、力のままに握った。