いち
□No.1の意味
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「…遅い、な」
うんともすんとも言わない携帯。溜め息をつく。もう深夜1時をまわってるのに、どうして帰ってこないんだよ。
「イ・ビョンホン…」
送ったメッセージに返事はなし。
友達との楽しい席を邪魔しちゃ悪いと思ってしなかったけど、さすがにそろそろ電話でもかけてみようか。
「…あれ、どうしたのヒョン?」
「チャンヒョン、お前〜、まだ起きてたのか?もう寝ないと駄目じゃないか」
「わーかってる!もう寝るよ!ってかヒョンこそでしょー」
「ん〜、帰ってこないんだよ」
手元の液晶を気にしながら。なんでもないことみたいに言う。
ああ、そんな演技必要なかった。チャンヒョンは大丈夫か、一緒に起きてて待つなんて言うはずないな。
「ふーん、朝帰りじゃない?友達って言って、彼女だったりして?」
「あ、それは無い。」
「なんで言い切れるのー!わかんないじゃないか、隠してるだけで」
そうだね、お前らには隠してるよ。でもあいつに彼女はいるわけない。だって、ビョンホンと俺は…
でも、もしかして俺にも隠して、俺を騙して今日は彼女と会ってる、なんてことも、あるっていうのか…?
「もういい、寝ろ」
「はーい、寝まーす、ヒョンも早く諦めて寝てくださーい」
可愛くない口をたたくチャンヒョンを睨んだら、逃げるように部屋に入っていった。
気楽だよな、お前の一言のせいで、俺は今もう、どうにかなりそうなのに。
「ない、有り得ないよ、そんなことできるやつじゃない」
だけど、そもそも、俺とビョンホンは、なんなんだろう?
俺たち気持ちが通じ合ったと思ったのに、同じ気持ちだって確かめたのに、それから?…それだけだ。
ただ漠然と、一緒にいたくて、大事にしたくて、そんな存在ってだけで。ビョンホンにとって俺はなんなのか。
恋人?…なんか、そんな感じではない。照れくさい。だからって、ただのメンバー?友達?そんな感じでもない。俺としてはそれじゃちょっと足りない。
でも、ビョンホンにとってもし俺が後者に近い存在だったら?彼女をつくったって、会いに行ったって、自由だ。
ずっと帰りを待っていたって、誰といるのか不安だったと言ったって、俺が干渉できることじゃないのか、もしかして。
「ああ、何?悲しすぎる…」
チャンヒョンの一言に惑わされて、電話もまだかけられずにいる俺。あいつは俺たちのことを何も知らないのに、そんなやつの一言で。
…そうか、俺たち、ただのメンバーでも。心配くらいしていいはずだ。妙な感情が絡まった嫉妬でも束縛でもなくて、ただ心配で。
「それだ、うん、それ」
自分で言い聞かせながら早速電話をかけた。すでに表示させてたビョンホンの番号。発信するだけだ。
(出て…どうか…ビョンホナ…!)
「…、…、…、…、ん…もしもし」
「ビョンホナ!」
「おー?イ・チャンヒ?どうしたー?」
なんだよ、随分楽しそうじゃないか。俺の気も知らずに、全く。
そう心のなかで毒づきながら、実はほっとして体の力が一瞬で抜けた。
「なぁ、今何時だよ?お?いつまで遊んでるつもり?」
「帰りまーす!帰る!帰るぞー!」
つっかかるような俺の口調も気にせずに、耳元に聞こえてくる叫びに近い声。本当にハイテンション。俺との温度差がすごい。
「どこだよ?どうやって帰るって?」
「ん?あー、考えてなかった」
はは、って笑う。いやに綺麗にその顔が頭に浮かぶから、もう深夜なのに、俺だってもう寝たいのに。
「場所言って、…迎えに行く」
そんな言葉がつい、口をついて出た。
内心、すごく緊張したんだ。もし電話に出なかったらって。出なかったらそれこそ、一緒にいるのが彼女だと思う。
さてそうなると、俺が迎えに行くと言ってビョンホンは断らなかったのだから、ますます彼女ではなさそうだ。
まぁ、俺をなんとも思ってなくて普通に彼女と会っていた、なんて、そんな一番キツい展開も有り得るわけだけど。
とにかくビョンホンを迎えに行かなくちゃ。こんな時間だから、特に着替えなくても大丈夫だろう。
そう思って、携帯とキーだけ持って靴を履いて、ドアを開けた瞬間。
「I'm hooooooome!」
「うおっ!」
英語を発しながら飛び込むように入ってきた物体を俺は正面で受け止めて、バランスを崩して一緒に床に倒れた。
「Sweetie~」
「え、ちょっ…わ、」
いきなり顔を手で挟まれて揺らされたあと、おでこにちゅーされた。どうしちゃったんだ、イ・ビョンホン、おかしくなったか?
「あぁかわいい、かわいいい〜!」
「ビョンホナ、待っ、」
…はぁ。
床に転がったままぎゅうぎゅうしがみついてくる。とりあえず早く起き上がろう、聞きたいことが多いから。
「チャニ…、怒った?」
「怒ってはー…ないけど」
「ごめん、かわいいなって思ったんだ」
「…あー、えーっと…どうも?」
ちょっと何、照れるじゃん。なんなのもう…なんなのもぉおおおお!
「お土産あるよ」
「んー、?」
「…あっは!」
おお…ポケットから何を取り出すかと思ったら…ハート?
これはいよいよおかしい。本人も照れて笑っているけど、イ・ビョンホンであってイ・ビョンホンでないような…。
「どうやって帰ってきたんだよ?電話したときもう近くにいた?そのテンションはどうしたの、そんなに楽しかった?本当に友達と会ってたんだよな?」
それと…、俺は、お前にとって何?
一気に色々聞きすぎた気がするけど、一番聞きたいことは声にできなかった。
「友達…うん、みんな同業者だよ、マネージャさんも一緒に来てるひといて、車乗せてもらった。もうすっっごい楽しかった!」
「ふーん…」
「あっ、電話。すぐそこでとったよ、チャニ驚くかと思って、ドアの外でさ、出てくるの待ってた」
「驚いたよ〜当たり前だろ、こっちは帰りが遅いから心配してたっていうのに…」
心配だっただけだ、嫉妬なんて、そんな幼稚なものじゃない、きっと。…ああ、本当に嫌になる、キャラじゃないよこんなの。
「…チャニが、こんな時間に、ホントに迎えに来てくれる気だったから」
「ん?何?」
「なんか、かわいいなって!ありがとうチャニヤ〜」
「おー、よしよし…」
また抱きついてくるビョンホンの髪を撫でてやりながら。果たして今のは一体、どういうことなのか。
お前がさっきから言ってるその「かわいい」って、ご主人様の帰りを待つ犬みたいで、とかだったら嫌なんだけど。
「はぁ…寝る…おやすみ〜」
「はっ!?」
見てみるともう目を閉じてて、マジで寝そう。今日はとことんイ・ビョンホンに振り回される日みたいだ。
「ん〜…」
「こら、肩貸すから、玄関で寝るな馬鹿」
「着替え〜…着替える〜」
「んー、部屋入ったらな」
ビョンホンの腕をとって俺の肩にまわさせて、なんとか立ちあがらせた。
「…おい、イ・チャンヒ!」
「わっ、耳元で大声出すなよ!」
時間も時間だし、みんな寝てるんだから、静かにしててくれ。なんて思ったんだけど。
「お前は…お前はぁ〜…俺の…」
「…俺の、?」
続きに期待が高まった。
ここまで聞いたら、最後まで言ってもらわなくちゃいけないだろう。じゃなきゃ気が済まない。
「俺の、」
「うん…?」
「No,1!!だからぁ〜」
そう言ってまた目がなくなるくらい笑って、俺にぎゅっと抱きついた。
「…それって、俺が一番…なんなの?」
「あ〜!わかってない!一番愛してるって意味にきまってるじゃないか。お?」
「へぇ…?」
全力で平静を装って、ただビョンホンを運ぶのに集中するけど、なんかもう、どうしよう、頬が緩む…!
「♪You know I~ I'm your No.1」
この真夜中に、鼻歌もホントは止めるべきなんだろう。でも俺は今そんなことにかまってられるほど冷静じゃないし、楽しそうなビョンホンを止めるのはちょっと気がひけた。
「BIGBANG先輩?」
「そうそう!さっすがウリチャニヤ〜」
「まぁ…お前のNo,1だから…」
自惚れってやつは、人の気を大きくする。怖いものなしって気分だ。世界がキラキラする。ああなんていい日。
「No,1~ ANGELはNo,1~ …お!ANGEL、イ・チャニと同率一位だ〜」
「…ん?」
同率?同率一位?
いや…まぁ、仕方ないか、ANGELはしょうがない。うん。
「アン・ダニエルもNo,1~ あ〜…んっと、ユ・チャンヒョンも〜」
「…ちょ、待て、No,1?みんな?ミンスヒョンもジョンヒョンも?」
「お〜?あ、あとぉ、ANDYヒョンも〜」
「はぁ…イ・ビョンホン…マジか…」
あ…もうほんとショック…。ぬか喜びさせやがって…この…
「あ、イ・チャンヒ!お前のNo,1は?」
「俺?俺は…えっと…」
なんて答えてやろうか。なんかもう絶対「イ・ビョンホン」って名前は出してやりたくないし。
「チャニヤ…?」
「ん?」
「…ん、あの、さ…俺たちは…相思相愛、だよね?」
「はっ…!?」
いきなりしおらしくなって、うつむいて俺のTシャツの裾を引っ張りながらそんなことを言うのは間違ってる。
…いや、それがもし、俺をさっきの質問に「イ・ビョンホンお前だ」と答えさせる作戦なんだとしたら大正解かもしれない。
「チャニのNo,1は…誰?」
「…っ、イ、イ・ビョンホン…?」
ああ、この、この口が勝手に。
「!!チャニヤ〜愛してる〜っ」
「おー…俺も愛してるよ…」
やられた…いや、やられたけど、これって、さっきの、俺たち相思相愛って?
そういうことで、いいの…?
ああ…もう、わけわかんない…。こんな気持ちじゃ、今夜はきっと眠れなさそうだ。
「イ・チャンヒ」
「…なんだよ」
「俺が寝付くまでいっしょにいて。じゃなきゃ眠れない気がする」
「はぁ?」
「落ち着くの、お前のそば」
「全く…しょうがないやつだな」
…くそ、かわいい。
だからって許すと思ったら大間違い…
(いや、嘘、やっぱ大正解。)
俺の手を握ってそんなに幸せそうな顔して寝るのは、ちょっと反則。
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