いち

□あなたが特別
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「はーーお腹減ったっ!何にしよっかな〜♪」

楽しそうな声色。俺はもうどうにかなりそうだよ。アンダニエル、あんたのせいで。

何食べよう、なんて考えながら、どうして唇に指を持ってくんだ?


「ジョンヒョンは?決めた?」

「…なんでもいい」

「遠慮するな!ヒョンが奢ってやるから!」

「は?いや、俺も出す、」

「じゃあお前のぶんは俺が奢る!ジョンヒョンは俺に奢ってよ!」

「なにそれ、めんどくさ、…」

あぁもう、そんな気軽に肩を組んでくるなよ。俺の気持ちもわかって、ニエリヒョン…。


「…ねーぇ、ジョンヒョナ」

「なに、…っ」

なんだよ、わかってたのかよ。
でも、こんな風に突然キスしてくるのはズルい。


暑いよ。心臓が超うるさい。

聞こえる?ヒョン。


「…はは、俺からしちゃったね、欲求不満かな?」

「っほんとですよ、汚れない末っ子にこんな、あー!オンマー!」

「汚れない末っ子?誰の話?少なくとも今俺がキスしたこいつは違うみたいだけど?」

違うみたいって、ヒョンに出会うまでホントにそうだったのに。ヒョンがこうさせたのに。

「…責任とってよ、ヒョン」

「わ、ちょ、待って、なんか頼んでからにしなきゃ!」

「…。」

目の前にご飯置かれて、待て、された犬ってこんな気分なのか。ふざけんなって感じだ。噛みついてやろうか。

「何食べる?」

「アンダニエル」

「バッカ…、それは、あとでね」

ふざけんなって思っても従うのは、よし、って言われるのがわかってるから。

あとでね、なんて言いながら俺の手に自分の手を重ねるヒョンは、今まで何人にこういうことをしてきたんだろう。
落ちないわけないだろ、こんなの…。




「はーい、以上で〜」



ニエリヒョンが注文を言い並べて、それをメモした店員が出ていく。
注文はヒョンに任せたけど、そのタイミングだけ見計らって…


「ヒョン、俺もう限界、」

「っあ、おい、…っ」

後ろからぎゅっとくっついて首元に顔をうずめた。ヒョンとふたりでいて、どうしてヒョンと離れてなきゃいけないのか。わかんないから。そんな時間、無駄だから。


「キス、したい。ヒョン。…していい?」

「お前…ふざけんなよ、」

なんで。そんなこと言わないで。さっきヒョンからしてきたのに。なんで。

「ニエリヒョン…」

「そういうのは、聞かないでするもんなんだよ、こう…」

あぁ、嫌だ、こんな時、本当に嫌になる。ヒョンはどうして、俺を引き離すの。あなたしか知らない俺を。

唇はくっついてるのに。遠い。

(ヒョン、今まで恋人は何人いたの?何人とキスした?)

こう聞いたらまた、野暮だとか、わかってないとか思われるかな。


いつも俺とだけこうして、俺だけを知ってて、俺だけを愛して。お願い、ヒョン。



「俺、ヒョンが好きだ…」

「ふふ、うん〜、突然だな。知ってるけど?」

「ヒョンとキスするのも好き…」

「な、なんだよ〜、そんな恥ずかしいこと言うなって!」

あぁ、もう、どうしてこんなに魅力的なのか。
余裕なように振舞って、ときどきは照れてみせて…そうやって人を惹きつけることが。
この人はそれがとても得意みたいだ。

ねぇ、ヒョン、好き、好きだ、こんなことしないで、もうその魅力は全部捨ててしまって。
誰も惹きつけないアンダニエルになってよ。既にハマってる俺は、そんなあなたでも愛し続けてしまうと思うから。


「もう…嫌になる。ヒョンなんていなきゃいいのに」

「お、お…?また突然だな〜」

「ヒョンになんか、出会わなきゃ良かった」

好きにならなきゃ良かった。

最初はさ、俺はまだ若いから、未来があるから、一回ヒョンにハマっても、それを捨てていつからだって再出発できると思ってたんだよ。

だけどいつからか
アンダニエルがこのまま俺のものにならないなら、好きになる前に戻りたいって、そんな気になって…


「そんなこと、本気で思ってるの…?ジョンヒョナ…」

この人を手離すことが、もう、俺には出来なくなってる。




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