ai no kanzashi
□サイダーゼリー
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プルリと揺れる、清々しい色味のゼリーに、スプーンを近付けては離し、ヒナタは葛藤していた。
完璧な見掛け。
壊すのは気が引ける。
けれども食べたい。
魅惑的な見掛け。
壊すのは一瞬。
しかし口にしたら、きっとそれはどんなにか甘く、果てしない幸福でヒナタを満たしてくれるだろう。
ああ、どうして美味しい物程、こんなにも美しく在るのか。
――……そんなに勿体振っていると……食べちゃいますよ?
不意に声が届き、ぽかんと顔を上げる。
側でくすりと微笑う従兄に気付き、ヒナタは耳まで真っ赤になった。
「もう一個、頼んであげましょうか?」
ネジが優しく目元を緩めながら、ヒナタを見つめる。
ネジの用意した、取って置きの、甘過ぎる解決策は、少女にとっては魅惑的であり、屈辱的なものだった。
「い、いらない」
折角の優しさを、ふいにして、ヒナタはスプーンをゼリーに突っ込んだ。
完璧な見掛けが、壊れていく。
そして引き換えに得たのは、ひんやりとした幸せ。
渇いた口内に、固形の青いサイダーが、しゅわしゅわと染み渡る。
そうですか?、とネジは、どこか楽しげに微笑んでいる。
目の前に置かれた自分のコーヒーには、手をつけず、それは楽しげに、ゼリーを口に運ぶヒナタを見つめて。
カラン、と入り口のベルが鳴り、客が一組入って来た。
開いたドアから、涼しい風が入り込み、ヒナタもネジも、揃って目を細める。
何の気紛れか、ふらりと訪れた喫茶店は、初夏の香りが漂っていた。
かき氷が始まったら、また、連れて来てくれるかしら…?
ちらっと見上げたネジは、何も言わず、再びヒナタに笑い掛けた。
(旧拍手SS)