nh world-R

□幸せなふたり
2ページ/2ページ





荒々しい呼吸が部屋に響き、行為の後の、気怠い空気が立ち込める。
避妊具を処理し、覗き込んだヒナタの顔に、ネジは一気に罪悪感に苛まれた。
少し、欲を吐き出す為、乱暴にしてしまったかもしれない。
それでも、最小限に抑えたつもりだったが、ヒナタの顔に疲れが見える。

「……ん」

白い顔に、ぽっと浮かぶ、紅潮した頬に、ネジがそっと口付ける。
眼差しを寄越すヒナタと、見つめ合い、微笑した彼女に安堵し、また一つ、二つと頬を啄んでいく。
心地良さそうに瞼を閉じて、ヒナタは顔中に降るキスを受け止めていた。
綺麗に切り揃えた前髪を、掻き分け、額にキスを落とすと、擽ったそうに笑みを零した。

「……赤ちゃんにも……して……?」

不意に見上げてくる瞳に、そう強請られ、ネジはきょとんとヒナタを見遣る。
――お母さんばかり、可愛がったら……この子が、可哀想。
この子…と言われ、ネジは視線を、ヒナタの撫でる腹に移す。

「……ああ、そうだ……可哀想だったな」

フッと、優しく笑んでから、了解…と可愛い願いに心得て、ネジは体を下にずらす。
別に、忘れていた訳ではないが。
ヒナタは腹の中の子が大好きだし、それはネジも同じだった。
膨らんだ腹に、唇を寄せ、其処も同じように優しく啄む。
一つ、二つと、願いを込めて。



あなたに似て、笑った顔の可愛い子であるように。
優しいあなたに、沢山懐きますように。
……偶にはオレにも、懐いてくれますように。



「……届いたかな」

幾つものキスを落とし、顔を上げたネジは、その母のヒナタに尋ねる。
まだ腹の中にいるから、子のことはヒナタにしか分からない。
願いを込めたネジの口付けは、ヒナタにも、どうやら伝わったようだった。

「うん……届いた、よ……きっと届いたよ……」

瞳を潤ませ、ヒナタは声を詰まらせる。
母となっても、ヒナタは感情が昂ると直ぐに涙ぐむ。
……子に、影響がないと良いのだが。
安定期に入ったとは言え、油断は出来ない。

「あまり泣いていると、笑われるよ」

母の悪い癖が出ないよう、そうして宥めると、体が冷えないように、二人揃ってシーツに包まる。
すっぽりと体を覆ったヒナタを、胸に引き寄せ、互いの体温を感じ合う。
火照った体は、未だ行為の名残を漂わせて、どこか気恥ずかしそうに、ヒナタはネジの胸に顔を埋めた。

「……うん」

温かな朝食は、もう冷めてしまっただろう。
珍しく食べ損ねてしまったが、それほど空腹でもないし、何だか包まれる腕の心地良さに、眠くなってきた。
ネジの胸の中で、その寝息を静かに感じながら、ヒナタはひっそりと胸の内で願った。
生まれてくる、子のこと。



あなたに似て、笑った顔が可愛い子であるように。
優しいあなたに、沢山懐きますように。
……偶には私にも、懐いてくれますように。

そんな、そんな子が良い――。






先に眠りについたネジを追い、ヒナタも夢の世界に誘われた。
窓からはそよそよと暖かな風が入り込み、薄いカーテンを揺らしている。
いつもは任務に引っ切り無しに駆り出されるネジだが、今日は滅多にない休日。
もう少し、ゆっくり出来る。

ゆっくり、ゆっくり、歩いて行けば良い。
初々しい二人の家庭は、まだ始まったばかり。


……いや。
もう直ぐ、三人になる家庭の。

それは幸せな、休日。




(了)
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ