亜双義夢(男装夢主)

□亜双義一真の憂鬱
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「成歩堂、オレは男色の気があるかもしれん」


亜双義が、はあ、と熱い息遣いの溜息を吐きだす。

牛鍋屋で鍋をつつきながら唐突に言われた言葉に、龍ノ介は真っ青になった。
顔からさあっと血の気が引くようだった。


「どうしたらいいのかわからん。相談に乗れ」


牛鍋は奢ってやるから今夜付き合え。

と、ほとほと参った様子で
ため息まじりに言われた親友からの頼みに、龍ノ介は二つ返事で快諾したのだ。

どうやら恋煩いらしいと、雰囲気から察し、
ついに亜双義にも好きな子ができたか、とほくほくとした気分でいた。

どんな風にからかってやろうか、どんな女子を好きになったのか聞きだしてやろうなどと考え、
午後の講義が終わるのが、楽しみで楽しみで仕方がなかったのである。

何より、親友として頼られるということが龍ノ介にとってくすぐったく思えたのだ。

ああ、自分は本当に亜双義一真の親友なのだな、と今更ながらに感じられて。


それがどうだ。
牛鍋に舌鼓を打つ前にして、こうだ。

牛肉を盛り付けた皿を前にして、龍ノ介は震えあがっていた。
取り落とした箸が食器に当たって鋭い音を立て、そのまま床の上を転がっていく。

よもや……よもや……自分が亜双義にとって、
その『恋患いの対象』だったのではないかと思うと
背筋におぞ気が走るようであった。


「まさか……

きっ、きっ きみわ! この、ぼっ ぼっ ぼくに気があるわけではなかろうな!?」


自分自身を指さしながら必死で叫んだ龍ノ介の大音声に
店中の客や女給たちが一斉に亜双義に注目した。

ざわり。

と音がしたようにさざ波のようなヒソヒソ声が辺り一帯を支配する。

震え上がる成歩堂は、椅子から今にも尻を浮かさんばかりにして本能的に逃げ腰になっていた。



「貴様ではない馬鹿者!

うぬぼれるな!」



うぬぼれるな、とはある意味失礼な言葉でもあるのだが、
成歩堂がその言葉を聞いて心底ほっとしたのも事実である。

浮かせていた尻を椅子に降ろして、再度座り直す余裕ができるぐらいには警戒心が薄れた。



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