亜双義夢(男装夢主)

□親友の苦悩
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実は先程、白川に声をかけ、三人で夕食を共にしたのだ。
ひとりで食事をしている白川に近付き、飛び入りで相席になった形ではあるが、
特に逃げられる事はなかった。

成歩堂と亜双義がつるむようになったキッカケを訊かれ、
昨年の夏の弁論大会の事に話が及ぶと、白川は納得したように頷いた。

白川も成歩堂の事は覚えていて、亜双義を打ち負かした事を思い出したのか、
殊更愉快そうに亜双義に微笑みかけ、こう言ったのだった。


『私はこれからも、

貴様の失言に期待している……』


それは皮肉ではあったが、決して本心から亜双義を嫌っているようには見えなかったのだ。
そして亜双義はこの皮肉に対し憮然とするでもなく、不機嫌になるわけでもなく、
ただただ、白川の微笑みに魅了され、言葉を失っていた――恋する男そのもののように。


白川は成歩堂に対しては友好的な態度で始終接してくれた。
時には軽快に笑い声を上げ、成歩堂の話によく耳を傾けてくれた。
おかげで楽しく話すことができたし、白川に対する「近寄りがたい」という印象は成歩堂の中で払拭されたのだ。

それが亜双義に対しては時折冷たくなるのを、成歩堂はこの目で今夜見た。

亜双義に対しては一歩踏み込ませないような「壁」を感じたのである。
どこか警戒して心を許さないような強靭な意志さえ感じられた。

白川の人柄を見ると、理由なく人を嫌う人種には見えない気がした。

だから成歩堂は亜双義に問うたのである――何か嫌われるような事を白川にしたのではないかと。

だが、本心から嫌っているのであれば、そもそも食事に付き合う訳もない。

こうして成歩堂の下宿先を訪れる事もないはずだ。


成歩堂は書簡の並べられた机の脇に目を走らせた。

――畳の上に黒い学生鞄が三つ、置かれている。その中の一つはよく手入れされ、黒皮に艶があった。


(嫌いなわけではないのに、冷たくしたくなる……?)


(ぼくは白川さんという人がわからないぞ……)


まるで異性のそれのように、白川 凛の思考回路が読めない。
謎解きをしたくなるほどミステリアスな何かが、白川にはあった。
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