悪魔に魅入られた女神(仮題)
□第2章 犬猿の仲
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後ろを振り返ると細身で長身の青年が立っている。
切れ長な一重の瞳が油断なくわたし達を捉えている。
長い黒髪を後ろに括っている間違いなく美形と呼べる人だ。
「……」
2人共に睨み会う。わたしはその様子を見ておろおろする。
「もう次の獲物を決めたのか。働き者だな」
長髪の青年が皮肉を込めた口調で言った。
「生憎、こうしないと生きていけないんでね」
ホームレス風の青年が答える。
「ちょっ、獲物って何のことですか…」
今の会話を一般的に捉えたら獲物はわたしのことだろう。
話がわたしにも及んでいるならそれは聞き捨てならない。
思わず口を挟んだわたしを2人は目をぱちぱちさせて見てくる。
いけないことを言ってしまったようだ…。これはまずい。
…よし、ここは!
わたしはその場にしゃがんだ。
「おいで〜」
首にブルーのリボンを着けたあの黒ウサギを招く。
ウサギは嬉しそうにわたしの元へ近付いてきたので優しく撫でてあげる。
「……」
2人の視線が痛いが気にしない。
…負けるもんか。
必死に「わたしのせいじゃありません」オーラを放つ。
「…アルトのこと、気に入ったみたいだな」
相当の沈黙を破ったのはホームレス風の青年の声だった。
わたしは絶対口を開く気はなかったし、長髪の青年も「俺は悪くない」という立場を決めたようだったので、この人しか話す人がいなかったのだ。
「この子、アルトってゆーんだ、可愛いー!!」
と、大袈裟に喜んでみる。
はぁーっと大きな溜め息を吐いたのは長髪の青年だった。