赤髪

□左腕と右腕
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 逃げた山賊とその山賊に連れ去
られた子どもを探していた男は、
件の子どもを抱えて、
海の方向から歩いてくる人影を見
つけ、その場に立ち尽くす。
 人影は、見間違うはずもない自
分の船の船長。
 赤髪のシャンクスと異名を持つ
高額賞金首。
 びしょ濡れで、泣きじゃくる子
どもを右腕に抱え歩いてくる。
 その船長の利き腕である左腕が、
肘の少し上から無くなっている。

 10メートル程手前で、船長が男
の存在に気づき
「いやぁ〜まいった!腕、喰われ
ちまった。」
 あっけらかんと言い放つ。
 その状況に似つかわしくない船
長の軽い口調に、とるべき行動、
掛けるべき言葉が見つからない。

 …。

 数秒間の間の後
「ふっ、副長ぉ〜!!」
 男は情けない声で、自分が最も
信頼を寄せている人物の名前を叫
ぶ。
 その声に、近辺で捜査していた
他の船員たちも『何事だ?』集ま
ってくる。
 左手の肘から先を失い、だらだ
らと血を垂らしながら、へらへら
笑っている船長の姿に
一様に言葉を失い、立ち尽くす。

 呼ばれた張本人である副船長の
ベン=ベックマンは、大半の船員
が集まってから姿を現した。
 船長から一定の距離を置き、人
垣をつくっている船員たちの間無
言ですり抜け、船長に近づく。
 ベックマンの姿を認めたシャン
クスの顔から笑顔が消える。
 ベックマンは何も言わず、シャ
ンクスの肩に顔を埋め、しゃくり
あげている子どもを抱き取る。そ
して取り巻く船員たちに顔を向け
「ヤソップ!」
 と古参の幹部を呼ぶ。
「あぁ〜。」
 呼ばれた幹部は、邪魔くさそう
に答えると、2人に近づく。
「ヤソップ、ルフィを風呂に入れ
て、家まで送ってやってくれ。」
 ベックマンは、ヤソップにルフ
ィを抱かせると、普段の冷徹なま
での無表情を崩し、船員の誰もが
見たこともない優しい顔で覗き込
み、心地いいバリトンで語りかけ
る。
「俺たちの名誉のために戦ってく
れたんだってな。ありがとう。」
 ルフィの頭をクシャと撫でる。
「びしょ濡れだな。ゆっくり温ま
れ。」
 シャンクスもルフィに歩み寄り、
ベックマンの手に重ねるように、
ルフィの頭を撫でる。
そして同じように優しく語りかけ
る。
「ゆっくり休めよ。」
 ヤソップは、2人の手がルフィ
の頭から離れたタイミングを見計
らって、
「じゃあ。俺と風呂に入るか。」
そう言いながら宿に向かって歩き
出した。

 ルフィを抱えたヤソップが角を
曲がり、その姿が完全に見えなく
なるのを待ち構えていたかのよう
に、シャンクスの体がふらつき、
ベックマンがそれを受け止める。
「おっ!お頭!!」
「大丈夫だ!」
 ベックマンが叫びかけた船員た
ちを制止する。
 どう考えても大丈夫な態ではな
いのだが、ベックマンが言うとそ
んな気がしてしまう。
「お頭は、人並み外れて頑丈だ。
心配はいらない。」
 ベックマンの声が朗々と響くと、
全体に安堵の色が広がる。

「副船長!船で輸血の準備ができ
たぜ。」
 幹部の1人が声を掛ける。
「分かった。今行く。」
 ベックマンはシャンクスを横抱
きに抱え上げると、船の方へと足
を進めた。
 その後を数人の幹部が続く。
 ただ1人その場に残った幹部が、
肉を加えたまま
「じゃあ飯食いに行くか!」
 とのんびり言い放ちその場を解
散させた。
 

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