短編集。

□狗。
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「…様…、か…様……要斗様」



薄ら聞こえてくるその生暖かいような声に、俺はゆっくりと目を覚ました。
目の前には小さく微笑みを作ったタキシード姿の希亜羅が立っていて。
俺が起きたのを見ると「朝ですよ」と爽やかな笑顔でカーテンを開け始めた。入ってくる太陽の眩しさに俺は目を眩ます。
俺はノソノソと布団から這い出ると欠伸を一回してから近くにある椅子に座り、今日の新聞を読む。
その間、希亜羅はてきぱきと自分の仕事をこなしていく。
昔から俺の専属執事は大変だ。俺が起きたらまず布団を畳んで、朝食を用意して………。
それが全て終わっても俺を仕事場まで送るという作業がある。送った後も掃除、洗濯、食器洗い。
そして、俺は_____。



「要斗様。朝食が出来ました」



「…遅い。10分も待った」



それの全てに時間制限を付けている。
俺が家に居ない間でも、他の冥土やら執事やらに見張っているよう告げる。
勿論、嘘を付く者などいない。俺に嘘を付いたらどうなるか、皆知っていてそれがどれ程恐ろしいか分かっているからだ。



「…今日の昼食は抜きだ。わかったか?」



「承知しました。要斗様。…さあ、朝食を食べてしまわないと…、お仕事に遅れてしまいます」



しかし、この男には罰が効かないようで。何を言ってもはいはいと鵜呑みにするのだ。
俺は小さくそれに苛立ちを感じていた。
こいつをどうにかして悔しがらせたい。そう思う気持ちでいっぱいのまま、俺は朝食を食べ、会社へ向かった。


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