コルダ3

□君の名は
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ある日の放課後、オケ部に一緒に行こうとハル君の教室に行った時のこと。


「ハ〜ル君、今日の課題なんだけど…」

教室でハル君に親しげに話しかける女生徒を見た。ハル君もにこやかに対応していて、私が声をかけるタイミングを逃していると、入口にいる男子生徒に声をかけられた。

「小日向先輩、水嶋ですよね?お〜い、水嶋〜。小日向先輩だぞ〜」

私は夏のコンクールで有名になってしまったらしく、違う学年の生徒にも自分の事を知られている事が多い。さらにハル君の教室には何度か迎えに来た事もあり、この男子生徒も顔見知りだ。返事を返す間もなく、ハル君を呼んでくれた。

ハル君はすぐに気づいて、こっちに来てくれた。

「お待たせしてすみません。行きましょうか。じゃあ、また明日な、カリナ」

先ほど話していた女子生徒に声をかけて、ハル君は歩き出した。私はカリナと呼ばれた女子生徒と目が合ったような気がした。


「先輩、早く行かないと遅れますよ」

「う、うん」
私は足早にハル君に付いていった。




…カリナって名前、だよね。ハル君が女の子の事、名前で呼ぶなんて、仲良しなのかな…。私の名前だって最近呼んでくれるようになったばかりなのに、あの子は呼び捨てだった。目が合ったような気もするし…もしかして……。



「…輩?」
部室に着くまで、さっきの出来事をぐるぐると考えてて、ハル君に話しかけられてるのに気付かなかった。

「聞いてましたか?」

いつの間にか立ち止まっていたハル君が顔を覗きこんできた。

「…ごめんなさい…」

自分の考えたくない想像ばかりに囚われて、何も聞いてなかった。

「まったく。しょうがない人だなぁ」

ハル君は髪をかきあげながら、いつものように笑ってくれる。私の大好きな、あの笑顔で。

「…今、部長からメールがあって、今日は各自パート練習になったそうなので、一緒に練習しませんか?」

「うん!」

ハル君と二人で練習するのは久しぶりで、嬉しさのあまり勢いよく返事を返す。名前の事は気になるけど、とりあえず練習しなきゃ!



二人で空いている部屋で音を合わす。気にしないでおこうと思うけど、やっぱり気になって凡ミスばかりしてしまう。

「先輩、どうしたんですか?」

「…失敗ばっかりでごめんね…。もう一回…」

「何か気になる事があるんじゃないですか?ちっとも集中してませんよ。そんな状態で何度やっても同じです」

真っ直ぐハル君に見つめられて、理路整然と突きつけられると、観念するしかない。私は思いきって、さっきの事を聞いてみる事にした。


「…あの、あのね。さっきハル君、クラスの女の子の事、名前で呼んでたよね?それで、その子とは特別仲良しなのかな〜って」

ハル君はキョトンとした顔をしている。居たたまれなくなって、私はさらに言葉を繋げた。

「あの、ほら、私の事も最近名前で呼んでくれるようになったから、仲良しの子は名前で呼ぶのかな〜とか…」

あ〜穴があったら入りたい!何言ってるんだろ、私…。

なんか泣きそう…。




「…ぷっ!…」

恐る恐るハル君の顔を見たら、なにやら笑っているみたい。必死に笑いを堪えているようで肩が小刻みに震えている。

「あの…ハル君?」

「先輩!すみません!」

そういって戸惑う私をよそに笑い出してしまった。



「…あ〜、すみません。先輩は勘違いしてますよ」

「??」

「彼女のフルネームは、刈名 里穂さんです。特別、親しくはありませんが、今度の授業で一緒にやるアンサンブルメンバーの一人ですよ」


…?


カリナ リホ?


つまりカリナって名字だったの??


やだ!すっごい恥ずかしい!!

私は自分でも分かるほど顔を赤らめて、ハル君に謝った。

「すっごい勘違い!ハル君ごめんね」

勘違いが恥ずかしくて、ワタワタ挙動不審な動きの私の手を掴まえて、ハル君が私を引き寄せた。

「そんな勘違いをする、かなで先輩が可愛くて好きですよ」

そう、耳元でそっと囁いた。

私にだけ聞こえる声で。









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