うたぷり
□10年目の約束
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デビューから10年。春歌と音也と共にタイムカプセルを埋めて10年。
あの日誓ったトップアイドルとまではいかないですが、私たちは共に切磋琢磨し今もアイドルとして活動しています。
そして、今日は10年前の約束が果たされる日。
「もうすぐですね、トキヤくん」
運転中の私に助手席の春歌が声をかける。
「そうですね。ああ、音也は夕方頃になると連絡がありましたよ」
「そうなんですか。あれ?じゃあ、どうしてこんなに早く行くんですか?」
「ふふ。せっかく休みが取れたのですから、久しぶりに春歌と過ごす時間が欲しかったので」
「え?あの…それは…ありがとうございます!」
そう言って照れながら笑う春歌は知り合った頃から変わりませんね。
「という訳で、遅刻する音也はほおっておいて、先にタイムカプセルを掘り出しましょう」
「え?待たないんですか?」
「ええ。なにせ、10年前埋める時に散々からかわれましたからね。ちょっとした報復です」
「で、でも、3人でっていう約束でしたし…」
「おや?春歌は音也の肩をもつのですか?」
私がいたずらっぽく聞くと「そんな事ありません!私はいつでもトキヤくんの味方です!」と答えられてしまって、今も変わらず純粋な気持ちを向けてくれる春歌に愛しさが込み上げた。
「冗談ですよ。音也から先に掘り出ておくように頼まれたのです」
「え?そうなんですか?もう!トキヤくんは意地悪です」
「ふふ。すみません。春歌の反応が可愛くて」
「か!かわ…!?」
顔を赤らめてうつむく姿は本当に可愛らしいですね。
「ああ、顔を隠さないで下さい。久しぶりにゆっくりあなたの顔が見られるんですから」
普段、野外では言えない言葉を言う。
「私の顔じゃなくて、前を見て運転してください…」
照れの極致なのか、春歌はリンゴより赤い顔を私に向けた。
「もちろん、春歌を乗せているのですから、普段より安全運転ですよ」
そんなやり取りをしていると、目的地である公園に到着した。
「確か、この辺りでしたよね?」
10年前より幾分成長した木の下に立ち、埋めた場所を確かめる。
「そうですね。掘りましょうか」
「はい!」
私たちは小さいショベルで土を掘り起こした。思っていたよりも深く埋めていたようで、なかなか出てこない。
「…うーん。ここ…でしたよね?」
春歌が不安げに私を見つめる。
「間違いありませんよ。私の記憶に間違いはありません」
そんな話をしていると、ショベルの先に固いものが触れた。
「ほら、出てきたようですよ」
私は春歌の手が汚れないように、残りの土を払いながらタイムカプセルを掘り出した。
「うわ〜。ちゃんと待っててくれたんですね!」
春歌が感嘆の声をあげる。
「では、開けてみましょうか」
タイムカプセルの蓋に手をかけ、ゆっくりと開けると古くなった手紙が6通。
あの時、埋めた手紙を取りだし、春歌宛てのものを渡す。
「なんだか緊張しますね」
「ふふ。そうですね。今、読んでもいいですか?」
「う…恥ずかしいです…」
「読むために書いてくれたのでしょう?」
「うぅ…そうです…」
決心がつかないようで、手紙を握りしめたまま赤くなってうつむく。
「では、私の手紙から読んで下さい」
それならばいいでしょう?と見つめると、頷いた春歌は私が春歌に宛てた手紙を封筒から取り出した。
しばらくの沈黙。
私は自分が何を書いたかもしっかり覚えている。
木にもたれかかり、私からの手紙を読んでいる春歌の顔を見ていると、予想通り初めは嬉しそうな顔で最後には真っ赤になっていた。
「読み終わりましたか?」
「はい…あの…」
赤い顔のまま、私の顔を見つめる。
私は膝まずき、ポケットから小さなベルベットの箱を取り出した。
いつかの夜、星ノ岬で誓った言葉。
「この先どんな未来もどんな困難も君となら越えていける。長く果てない道を、夢を、すべてを…。この愛のために生きよう。常に傍らに立ち、守り抜き、君を支えると誓う。春歌。私と結婚して下さい」
流石の私も緊張しているようで、一足に言い切った。
「…トキヤくんは…アイドルです…」
春歌の瞳には沢山の涙が溜まっていた。春歌が心配している事はわかっている。
「私はアイドルである前に一人の男です。ファンの方々もわかってくれると思っています」
「でも!」
「ふふ。大丈夫ですよ。実は事前に社長に許可をもらってますので」
「…へ??」
呆気にとられた春歌の顔が可愛くて、私は微笑む。
「ですから…春歌。返事を…」
春歌は震える指先で私が持つ手紙を指さした。
「…読んで下さい…」
この状況で手紙?とは思いましたが、立ちあがって手紙を読んだ。
『10年後のトキヤくんへ
厳しく、優しい、そしてキラキラ輝くトキヤくんが大好きです。
きっとこの気持ちは一生ものだと思います。
20年後も、30年後もずっとあなたの隣に居たいです。
そして、いつか大好きなトキヤくんのお嫁さんになりたいです。
春歌』
手紙を読んで私は驚いて春歌の顔を見た。
「…私たちは、やはり相思相愛ですね」
涙を浮かべた満面の笑顔で答える春歌の左手を取り、私は薬指に指輪をはめた。
「愛してます…これからも私と共に居て下さい」
春歌の肩を抱き寄せて言うと「ふつつかものですが、よろしくお願いします」と今までで一番の笑顔で春歌が答えた。
あなたと過ごすこれから長い時間を思うと自然に顔が綻んだ。
→おまけ(音也視点)